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 岸本聡子著「地域主権という希望」を読んだ。近年の極右の台頭、新自由主義による格差の拡大、既存の左派政党の転落、気候変動と言った複数の危機のなかで、「ミュニシパリズム」が確かな希望として急成長している。
本書は2022年6月19日投票の東京都杉並区長選挙で、市民団体の支援を受けて初めて選挙に立候補し当選した著者の目指す社会構築の基盤としての、「ミュニシパリズム=地域主権」の発生経緯、目標、具体例を述べたものである。

地方自治体の意である「ミュニシパリティ」からきているミュニシパリズムは、政治参加を選挙による間接民主主義に限定せずに、地域に根付いた自治的な民主主義や合意形成を重視する考え方だ。ミュニシパリズムを掲げる自治体は、市民の直接的な政治参加、公共サービスの再公営化や地方公営企業の設立、公営住宅の拡大、地元産の再生可能エネルギーの促進、行政の透明性と説明責任の強化といった政策を次々に導入している。

2018年11月に欧州議会内で開催した「ミュニシパライズ・ヨーロッパ!」と題する討論会には、バルセロナ、ナポリ、グルノーブル、アムステルダム、パリ、コペンハーゲン、ルーベンの副市長、市議たちが登壇した。いずれも近年の選挙で市政与党となった議員たちだ。

イタリアでの実践例として、市民が2011年に国民投票によって、水道事業から利益を上げることを禁止する憲法改正にこぎつけたが、多くの自治体が利益追求型の水道サービスの形態を変えなかった。そのなかで、マギストリス市長率いるナポリ市は、全国に先駆けて水道サービスの公的所有を確立し、水をコモン=公共財と位置付けた改革を行った。

バルセロナでは、進歩的な地域政党「バルセロナ・コモンズ」が市民運動から誕生し、2015年の地方選挙で勝利した。バルセロナはミュニシパリズムの先駆的・中心的な存在で、様々な既得権益と闘いながら、市民とともに変革を進めてきた。
2018年12月、市は100件目となる市立保育園の設置を実施、22件目となるアパートの買い取りを行い、今までで最大規模の114世帯が入居できる公営住宅が誕生した。

バルセロナ・コモンズが市政を担当してから、合計で8960世帯分の公営住宅を新たに供給できたことになる。その他にも、低所得世帯が利用できる公営の葬儀サービス会社の設立、DV被害者救済サービスの再公営化、地元産の自然エネルギー供給公営企業を設立し、いずれも軌道に乗せている。

バルセロナ・コモンズの理論的支柱でもある第一副市長のジェラルド・ピッサレロは、経済の民主化、連帯、ミュニシパリリストのビジョンとその国際連携によって極右の台頭に対抗することを提案する。この国際主義こそ、ミュニシパリストが地域的な保護主義と一線を画する最大の特徴である。

ミュニシパリストが国際連携しネットワークするというこの考えを、バルセロナは2016年に「フィアレスシティ(恐れぬ自治体)」の設立を呼び掛けることで具体化させた。フィアレスシティは、抑圧的なEUや国家、多国籍企業、マスメディアを恐れず、地域経済と地域の民主主義を積極的に発展させることへの制裁を恐れないと謳う、住民と自治体の国際的なネットワークだ。2018年はニューヨーク、ワルシャワ、バルパライソ、ブリュッセルでフィアレスシティ会議が開かれた。

グルノーブル市は、フランスで2006年に水道サービスを再公営化したパイオニア。現在、同市は温室効果ガスの低減に向け、暖房や街灯などをすべて地元のエネルギーサービスで賄うべく、エネルギーの再公営化を目指している。再公営化は環境的な目的だけでなく、電気料金の支払いができない世帯を守る料金体系を設定する、社会的な政策も可能にする。

学校給食についても常に公共の管理のもとに置いており、さらに現在は地元産の100%有機食材使用を目指している。また、グルノーブル市には市民参加型予算制度があり、この枠組みを使い、市民の要求が予算化されて、市立図書館の閉鎖を回避できたこともある。

アムステルダム市は、Airbnbの規制にいち早く乗り出し、Airbnbの民泊を年間30日までと限定した。企業や資本家がAirbnb用に不動産を買い占めることが問題になっていて、他の首都同様、アムステルダムの住宅不足と価格高騰は深刻かつ緊急課題だからだ。

国家主義や権威主義を振りかざす中央政府によって人権、公共財、民主主義が脅かされつつある今日、ミュニシパリズムは地域で住民が直接参加して合理的な未来を検討する実践によって、自由や市民権を公的空間に拡大しようとする運動だと言える。具体的には、社会的権利、公共財(コモンズ)の保護、フェミニズム、反汚職、格差や不平等の是正、民主主義を共通の価値として、地域、自治、解放、市民主導、対等な関係性、市民の参加を尊重する。

ミュニシパリズムは普通の人が地域政治に参画することで、市民として力を取り戻すことを求め、時にトップダウンの議会制民主主義に挑戦する。政治家に対しては、地域の集会の合意を下から上にあげていく役割を、100%の透明性を持って行うことを求める。

日本では、2018年に安倍政権によって種子法が廃止された。これに対し、2018年12月、岐阜県議会が「種子条例」を制定すると報じられた。種子の安定供給に、国に代わって県が責任を持ち、市場任せにしないことを岐阜県は明確にしたことになる。埼玉県、新潟県、兵庫県、山形県も、種子法廃止と前後して、種子の安定供給を促す条例をすでに制定し、2022年6月時点で31道県が種子条例を制定している。

また同年12月には、多くの懸念を残しながら、コンセッション方式を含む改正水道法が成立した。これに対して福井県議会は「水道法改正案の慎重審議を求める意見書」、新潟県議会は「水道民営化を推し進める水道法改正案に反対する意見書」を提出した。このような地域主権、地域自治の表明は、民主的な議会での議論や地方自治をないがしろにし続ける強権的な中央政府を持つ国では、特に重要である。

ドイツのヘッセン州北部の小都市ヴォルフハーゲン(人口約1万4000人)は、2005年にいち早くドイツ系電力多国籍企業エーオンと20年の契約を経て決別し、送電線を再公営化した。同時に、新設された市営電力公社シュタットベルケ。ヴォルフハーゲンの共同オーナーに地元のエネルギー協同組合を迎えることで、市民と自治体が協働する電力モデルのパイオニアとなった。そしてヴォルフハーゲン市は、目標より1年前倒しで、2014年に再生可能エネルギー100%という供給目標を達成した。

スペイン南部アンダルシア州の都市カディス(人口12万人)は、2015年と2019年の地方選挙で連続してミュニシパリズムを標榜する市民政党が勝利し、半官半民の電力会社「エレクトリカ・デ・カディス」を100%再生可能エネルギー供給会社にする改革が進んでいる。

英国南西部の小都市プリマスでは、10年以上にわたる国の厳しい緊縮財政による社会的支出の大幅削減を反映し、住民の健康や公衆衛生が大きく後退し、子供の貧困率、電力貧困世帯率がともに40%に上っている。市議会は、これらの問題解決のために、のちの地域住民の組織であるプリマス・エネルギー・コミュニティ(PEC)を対等なパートナーとして位置づけ、その立ち上げに協力した。

PECは、地元住民が所有する太陽光などの再生可能エネルギーインフラを作り、生まれた収益は、市民投資家に還元した後、サービス向上や料金値下げとして利用者に還元される。さらなる余剰金は、電力貧困世帯を支援する社会プログラムや他のコミュニティプロジェクトの運営に充てられる。

外国企業などではなく、公的機関と住民が所有し、民主的に管理することで、気候変動や不平等という今日的な難題を、地域の力を蓄える前向きな課題に変換できる。国家やEUは、気候変動対策として、市民や自治体が自律的に実践するジャスト・トランジションを公的資金によって支援し、公共政策で他のどこでも実践できるように拡大してほしい。無駄にする時間は一秒もないのだから。

2020年のフランス地方選挙では、8の主要都市で「ヨーロッパエコロジー・緑の党(EELV)が勝利し、7人の「「緑の新市長」が誕生した。選挙運動のなかで、フランス全国に410ものミュニシパリズムに基づく「市民コレクティブ」が誕生し、選挙戦を戦った。市民コレクティブとは、左派政党だけでなく市民団体や社会運動体、個人も加わって、市民参加型の候補者リストを一緒に作り上げていく選挙運動の形のこと。

ヨーロッパのNGO活動から東京都杉並区長選挙当選までの「下からの民主主義」を追求してきた著者の体験記については、前著「私がつかんだコモンと民主主義」を参照。

















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