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 白井聡・望月衣塑子共著「日本解体論」を読んだ。政治学者の白井聡と東京新聞記者の望月衣塑子が、この10年間で加速度的に進行してきた日本社会の崩壊を、対談形式による様々な事象の解釈を通じて解明しようとしたもの。

議論の対象事象は、1戦前・戦後の二つの国体、失われた30年と主権の喪失、「平和と繁栄」という幻影について、2日本全体を覆う「政治的無知」がもたらす脅威について、3批判する力を失っているメディアと学問について、4権力とメディアの関係性について、5劣化する日本社会として、東京五輪で露呈した日本の人権意識や、政治家と官僚の関係、外国人労働者を「排斥」する日本の矛盾について、6ロシアとウクライナ侵攻について、である。

戦前は天皇を頂点とする天皇中心の国体、戦後はアメリカを頂点とするアメリカ中心の国体になったが、戦後も戦前の権力構造や社会構造は温存された。東西対立が終わった90年代以降は、日米関係の基礎は根本的に変わり、日本は庇護の対象から収奪の対象へと変化した。しかし、日本は国の根本的な立ち位置を再考・再設定できずに、対米従属がますます強化され、自己目的化していった。

主権には対内的な意味と対外的な意味がある。対内的な意味としては誰が主権を所有しているのか、君主なのか、一部の人々なのか、国民全体なのか。対外的な意味としては、国外から一切干渉されずに自己決定できるかということ。戦後の日本はこの二つの意味での主権がどちらも全く成り立っていない。対外的には、アメリカの属国であり、対内的には官僚主権、大企業主権である。対内的にも対外的にも国民には実態としての主権の一片もない。

「平和と繁栄」というキーワードで想起される肯定的な時代像が戦後のイメージだったが、3・11で「結局は全部、虚妄だったよね」と言わざるを得ない状況が突き付けられた。ポスト3・11に登場した安倍政権が8年近くの長期政権になったのは、メディアがだらしないという理由だけではなく、平和と繁栄としての戦後は今や幻影でしかないのに、その幻影を手放したくないという国民のメンタリティが政権を支え続けた。しかしそれも限界になってきたというのが現在、戦後77年目の政治状況だろう。

日米関係における対米従属の危なさは、日米安保体制が本来、国際関係の話であるはずなのに、日本のデモクラシーを支えるもの、いわば国民の精神の最も深いところを内側から掘り崩した点にある。天皇制は人間をダメにする。戦前の天皇制は畸形的な社会を作り出した。戦後の「アメリカを頂点とする天皇制」も全く同じで、そこに生きる人間をダメにする。

どのようにダメにするのか。戦後77年たった今の日本人には、自分の運命は自分でコントロールするという気概がない。「自分の運命の主人は自分である」という精神、あるいはそうありたいという欲望が「主権者である」ということの根本である。それなくして国民主権はあり得ない。それがない国で民主主義は成り立たず、だから当然、日本の選挙は茶番にしかならず、自民党が延々と勝ち続けているのだ。

民主制はそれを担うにふさわしい有権者によって担われなければ堕落するという事実、道理に基づけば、「国民の政治的無知」が跋扈する今日の日本では民主制がマトモに機能するはずがない。これは日本に限らずトランプ政権を生んだアメリカでも問題視されている。政治的無知におけるメディアの大罪はすさまじい。大阪維新の会はテレビが生んだモンスターだろう。

米ダートマス大学の政治学部の堀内教授の調査によれば、1有権者はほとんど政党の打ち出す政策というものを見ていない。選挙の時に政策なんかで支持政党や候補者を選んでいない。2単に「自民党だから」という理由で自民党を支持している。例えば、「日米安保体制の廃止」という著しく支持の低い共産党の政策ですら、自民党の政策として提示された途端、どちらかと言うと支持多数になってしまったという。もはや自民党はほとんど信仰の対象と言っていいくらいだ。

この10年の間、日本社会の崩壊は加速度的に進行してきた。政界、財界、労働界は言うまでもなく、マスメディア、学術の世界も同断である。なぜここまで劣化がとめどもなく進むのか。それを説明する理屈は色々あるが、それから対処策が直接出てくるとは限らず、何をなすべきかを教えてくれるわけでもない。劣化は、それ自身で進行するわけではない。その担い手、人間が必ずいる。要するに、劣化しているのは様々な現場における個人であると考えない限り、われわれは何をなすべきか、指針が得られることはない。今日の状況に照らせば、劣化に抗する拠点は個人の覚悟にしかないと言わざるを得ない。

















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