矢部宏治著
「日本はなぜ、基地と原発を止められないのか」
を読んだ。日米安保・法体系が日本国憲法・法体系より上位にあり、米軍基地は多くの密約を含む日米地位協定によって守られ、日本国に対する治外法権の占領地となっている。そして、日本の政・官・財にわたる支配層が、安保村を形成して己の利権を確保・維持している。原発政策は、日米地位協定とそっくりな法的構造を持つ日米原子力協定によってコントロールされており、電気料金以外アメリカ側の了解なしに日本側は何も決められない仕組みになっている。日米原子力協定も、日米地位協定と同じく「日本国憲法の上位法」となっている。
著者は、現憲法9条2項「前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権はこれを認めない」を、フィリピンやイタリアの憲法から学んで、例えば「前項の目的を達するため、日本国民は広く認められた国際法の原則を自国の法の一部として取り入れ、すべての国との平和及び友好関係を堅持する」と改定するとともに、改定後は国内に外国軍基地をおかないこと、つまり米軍を撤退させることを必ず憲法に明記し、過去の米軍関係の密約をすべて無効にすることを提案している。
理論的には著者の提案に賛成だが、憲法改正手続きは憲法に規定されており、改正発議には衆参両議員の3分の2以上の賛成が必要で、さらに改正決定には国民投票で投票者の半数以上の賛成が必要です。現状は、母方の祖父・岸信介の亡霊に取りつかれ、憲法改悪に執念を燃やすマザコン首相・安倍晋三傘下の自民党一強体制下にある上に、安倍が、2012年発表の「自民党憲法改正草案」でみられる復古的国家主義的改悪を強行しようとしている現状では、著者提案の改正案など誰も取り上げようとしないし、仮に誰か奇特な議員仲間が国会提出したとしても、あっさり潰されるのは目に見えている。むしろ、安倍の憲法改悪の口実を与えるだけのピエロに終わってしまうだろう。
著者提案の改正案を実現するには、著者が自ら賛同者を募って新しい政党を作り、他の野党と合わせて衆参両院の3分の2以上の勢力を構成し、国会に改正の発議をして国民投票の結果を待つしかない。また、それが成功したとしても、70年にわたる自民党政権のアメリカ追従政策を覆し、本当に米軍基地を撤退させることができる国民政権が存続しうるのか疑問である。