白井聡著「『戦後』の墓碑銘」を読んだ。本書は、「週刊金曜日」連載のコラム原稿、さまざまな媒体に書いた時事論的論考、「戦後」というテーマに関連する解説論文などをまとめたものである。前著「永続敗戦論」よりも端的な表現で、迫りくる危機と対処について記述している。

1 安倍政権が変更しようとしているもの
 安全保障問題では、特定秘密保護法、集団的自衛権の行使容認、武器輸出解禁は「ワンセット」であり、「戦後レジームからの脱却」の根幹を構成する「積極的平和主義」の内実をなす。先の衆院選でこの方針がトータルで是認され、ダメ押しの「戦争法」まで成立した。
これまでの平和主義は、「戦に強いということを国民的誇りとするのはもうやめよう」とい、一般国民の意識に拡がったコンセンサスに支えられていた。このコンセンサスこそ安倍政権が変更しようとしているものにほかならない。つまり、「積極的」とは、「敵を明確に名指ししてその敵を攻撃・無力化する」というやり方である。

2 人質事件を奇貨とする安倍政権の狙い
 ISによる邦人人質事件を通して表面化したのは、問題は「いつ、誰と、どんな戦争をするのか」ということである。「戦争の前に憲法改正があるはずだ」という認識は、極めて甘い。「改憲から参戦へ」ではない。「先ずは参戦、それから改憲へ」という順序が、現政府の狙いである。すでに戦争をしている、換言すれば、平和憲法は現に異論の余地なく空文化し、現実と対立している、という状況を改憲を議題に乗せる前につくることが、彼らの考える最良の方法である。そうなれば、国民投票による改憲の決断は、単なる現状追認にすぎなくなる。この観点から、IS問題は格好の機会を与えてくれるものであり、奇貨として利用すべきものである。
 
3 国体護持と原爆
 原爆が落とされたとき、当時の米内光政海相はこれを「天祐」と呼んだ。当時の国家指導層は、国家の内的崩壊(国体の破壊と革命)の危機に直面するなかで、原爆という比較を絶する破壊力を持つ兵器による攻撃は、国体を護持した形での敗戦を可能にする契機として受け止められた。原爆による犠牲はまさに「しょうがない」(昭和天皇、久間章生元防衛大臣)ものでしかなかった。そして、この護持された国体が今現在も続いている(敗戦を曖昧化した永続敗戦レジームとして)。彼ら永続敗戦レジームの中核層の本音は「感謝」にほかならない。そして「原爆を落としてくれてありがとう」と内心考える勢力を、国民は政治的に支持してきたのである。

4 卑屈・矮小な為政者への我慢を止められるか
 日本の法体系は二重の構造をなしている。日本国憲法という公然の最高法規と日米間の無数の密約という非公然の法体系であり、両者が矛盾する場合に優越するのは後者である。アメリカとの約束を守るためならば、日本国憲法などどうでもよいというのが、永続敗戦レジーム支配層の本音である。
日本の対米従属体制は、それが戦後の国体(戦前天皇制の代替物)となっている点で特殊である。大日本帝国が「天皇陛下は赤子たる臣民を愛してくださっている」という巨大なフィクションに支えられていたのと同様に、戦後日本は「アメリカは日本を愛してくれている」という国際化した虚構によって支えられている。

戦前戦中の政治が天皇の意思の輔弼・翼賛によって成り立っていたのと同様に、戦後日本政治はアメリカの意思に対する忖度によって成り立ち、かつその傾向は、対米従属の地政学的必然性が消滅した(冷戦構造の崩壊により)後こそ、逆説的にも高まってきた。問題は、このような奇怪な権力と利権の構造を作り上げてしまう日本社会に内在している。
この虚構が維持困難になるなかで、安倍晋三は訪米、米議会で演説させてもらった。選んだテーマは「和解」であった。注目すべきは「和解」を語る際に安倍が持ち出した歴史的記憶である。太平洋戦争の激戦地のいくつかに言及しながら、安倍は「真珠湾 バターン」を口にした。その一方、安倍はついに広島・長崎には言及しなかった。これ以上卑屈な振舞は想像すらできない。日米両国民の和解を語りながら、その非対称性は明らかである。

つまり、安倍の訪米は、実質面での朝貢(集団的自衛権に基づく自衛隊戦力の米軍への差出し)のみならず、イデオロギーの面での完全敗北を印すものであった。ポツダム宣言を気に食わないから読まず、侵略戦争の定義は定まっていないと言い放ち、したがって東京裁判の正当性に異を唱えながら、その「勝者の裁き」の張本人の目の前で言えたのは、実質的には「私たちだけが悪うございました」ということでしかなかった。主人の許しを乞い、愛を乞うその姿は、実に哀れで卑屈である。この卑屈・矮小極まる為政者に下駄を預けている国民とは、より一層卑小な存在にほかならないことを、どれだけ多くの人が認識し、我慢するのを止めることができるのか、そこに一切は懸かっている。

















管理者にだけ表示を許可する


| HOME |


Design by mi104c.
Copyright © 2017 個人出版コミュニティ, All rights reserved.