渡辺治 外3著「〈大国〉への執念 安倍政権と日本の危機」を読みました。本書は、安倍政権の権力構造とその担い手、およびその国家改革・社会改革の目標とそのための諸施策の全体像を解明し、同時にそれらがどのような矛盾と困難を人々にもたらすのか、彼らの描く「絵」はどのような矛盾を内包しているのかを明らかにしています。歴代の保守政権の中でも特異で危険な安倍政権の全体像を的確にあぶりだしており、安倍の暴走を阻止するためにも繰り返し熟読すべき本です。

2 安倍政権を支える集権体制とその担い手(2)
 安倍政権の政策決定構造を見ると、安倍官邸にはその意思決定に影響をもたらす三つの勢力、ブレーンがある。この三つの勢力とそれを取捨選択して安倍官邸の意思として打ち出す菅官房長官体制がある。
第一のグループは、安倍を取り巻く外務官僚群である。その中心には、第一次政権での安倍法制懇の座長の柳井俊二、第一次で外務次官、第二次で内閣府参与、国家安全保障局局長の谷内正太郎など外務省の主流をなした官僚OBに、内閣官房副長官補の兼原信克など現役の外務官僚群、そして外務官僚機構全体がそれをサポートする。このグループは、新主流派とでも呼ぶべき勢力を形成し、安倍政権の軍事大国化を主導している。

この外務省グループの政治的・思想的特徴は四つある。それをこのグループを率いる谷内正太郎の言葉から見てみよう。谷内の思想の第一の特徴は、日本の大国化をめざして日本独自の国益にこだわり、その確保のための国家戦略、外交戦略をもつべきことを強く主張している点である。谷内は問題意識の第一に「国際舞台で国益を追及する」ことを掲げており、日米同盟は国家戦略遂行の重要な手段であって「自覚」的に選択されるべきことが強調され、冷戦期の外務省主流がもった対米依存至上主義とは異なる。「大国」として行動するには「事なかれ」ではなく「積極主義」でなければならず、それは戦略を持つことだという。これこそ、安倍政権の「積極的平和主義」にほかならない。しかも注目すべきは、谷内はあるべき外交戦略を七つあげているが、そのトップには、対米同盟ではなく、「我が国が追及している基本的価値と利益に立脚した国際秩序」の形成が挙げられている点だ。これは言い直せば、グローバル経済が安定して展開できる国際秩序を意味する。谷内の目指すべき国家とは、まさしく「グローバル競争大国」であると言える。こういう人間が安倍政権を支えるトップに登場したことを軽視してはならない。

谷内の思想の第二の、そして最大の特徴は、この派を象徴するように日米同盟の強化と対等化を主張している点だ。ここでいう「対等化」とは対米従属・依存の打破ではない。逆に、日米同盟の強化に汗を流しその枠内で「対等」化をはかろうというのである。この「対等化」の障害物が憲法上の制約で、この制約は大国化のための外交戦略展開に必須の「国際平和協力」でも足枷となっている。
第三の特徴がここから出てくる。谷内は、外務次官在任中から精力的に集団的自衛権行使容認を主張した。これこそ谷内の日米対等化論の柱をなすものであった。安保体制の平等化、相互性のためには「集団的自衛権の問題をはじめ、日本が国際平和協力するときの憲法上の制約をできる限りなくさねばならない」と主張した。谷内は九条の改変を主張しながら明文改憲の困難を考えて、解釈で実行することを主張している。この解釈改憲戦略が第二次安倍政権の政策の中心に座っていることはいうまでもない。
第四の特徴は、靖国、歴史問題では日本帝国主義の植民地支配と侵略にかかわる「歴史を直視」すべきであると主張していることだ。これに対するタカ派の反発は強く、靖国に対しても「慰安婦」問題に関しても外務省は絶えずタカ派の攻撃の的となっている。ここに安倍官邸内の激しい対立点が存在する。これこそ、グローバル競争大国とその復古的正当化の矛盾に他ならない。

















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