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 マイケル・サンデル著「それをお金で買いますか 市場主義の限界」を読みました。あらゆる物が商品化され、金で取引される市場社会の問題を、行列割り込み、インセンティブ、生死市場、命名権などの具体的事例について考察することで、不平等と腐敗にかかわる倫理問題として提起しています。

不平等は、物品だけでなく政治的影響力、すぐれた医療、安全な地域に住む機会、一流校への入学など、価値あるものがすべて売買の対象になることで、より一層厳しいものになる。腐敗は、生きていく上で大切なものに値段を付けることにより、それが腐敗してしまう恐れがあるということ。例えば子供の読書に金を払うと、読書は心の満足ではなく面倒な仕事だと教えることになる。新入生となる権利を最高入札者に売れば、収益は増えるが大学の権威と入学の名誉は損なわれる。

行列割り込みには、空港の手荷物検査やテーマパークにできる長い行列に金を出せば割り込める「ファストトラック」サービス、利用料金を払えばラッシュアワー時の数珠繋ぎの車列から流れの速い高速車線にはいれる「レクサスレーン」サービス、劇場のチケット購入や議会公聴会の席を取るための行列代行サービス、会員となり高額の年会費を払えば待ち時間のない診察が受けられる「コンシェルジュ診療」サービスなどがある。

インセンティブとは誘因を意味し、薬物中毒の女性に対する避妊手術の補償金、共通テストで好成績を収めた生徒に学校が金を払う、健康管理に金を払う、移民権の販売、金を払ってクロサイなどの絶滅危惧種を狩るなどの金銭的インセンティブがある。生死市場としては、企業が従業員保険をかける「会社所有型生命保険」、生命保険買い取り産業、有名人の死を予想して賭ける死亡賭博、テロの先物市場、様々な病気の患者の保険証券をパッケージ化して債権にした商品などがある。命名権としては、各種プロスポーツのスタジアムと競技場、公共施設への命名権販売、富裕階級や特権階級用の豪華なスカイボックス、日常生活空間や公共施設への広告媒体の浸透などがある。

市場主義の限界とは、大切にすべき非市場的価値が、市場的価値に押しのけられてしまうことにあるということです。市場で売買してよいものは、それを商品として、利益を得る道具、使うための道具として扱うのが妥当と判断できるものに限られるということです。例えば奴隷制が許されないのは、人間を商品扱いし、競りの対象とするからです。

日常生活の隅々にまで市場が浸透しているアメリカ社会は病的とも言えますが、アメリカに限らず世界中の資本主義社会がそうなるのも時間の問題でしょう。

















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