fc2ブログ
 山本 圭著「現代民主主義」を読んだ。本書は、20世紀から21世紀にかけて論じられてきた、民主主義の概念の変遷を記述したものである。指導者、競争的多元主義、参加、熟議と闘技、輪番制、ポピュリズム等々、民主主義には様々な形容詞が付され、民主主義についての構想は収拾がつかないほど拡がっている。

これは、現実の民主主義にただ一つの正解やゴールのような到達点がないことを示すものである。そのため、今の民主主義がつねに不完全であると認識するとともに、将来のいつかの時点で完全な民主主義が実現されるという甘い期待を抱くべきではない。たとえば人々の意見が完全に一致したり、民意が過不足なく代表されることは、今後も起こりそうにない。

20世紀初頭に現れた「指導者民主主義」は、大衆社会を導く強力な政治指導者の必要を説くものである。ウェーバー、シュミット、ケルゼンの思想を中心に、民主政治と指導者の関係を考察している。

シュンペーターの競争型エリート主義は、政治家を選出する選挙の意義を強調したことで、私達に決定的な影響を与えている。ダールは、シュンペーターの「競争」のアイデアを「多元性」へと置き換えることで、シュンペーター・モデルを人口に膾炙させることに貢献した。これにより、「シュンペーター=ダール枢軸」ともいわれる強固な磁場が完成を見ることになる。

1960年代以降に興隆した参加民主主義の潮流では、政府や社会に異議申し立てをする人々という新しい現実に応答する理論が求められた。そこでキャロル・ベイトマンとC,Bマクファーソンの著作、および公共性をめぐる政治思想に着目し、政治をエリートから市民に取り戻そうとした理論的動向を明らかにする。

現代民主主義論で最も盛んに議論されている熟議民主主義を取り上げる。熟議の理論は、デモクラシーを「意志」の代表ではなく、「理性・理由」の代表ととらえることで、対話やコミュニケーションに基づく民主主義を構想している。ここでは、熟議民主主義の対抗者である闘技民主主義と対比させながら、この議論の意義を検討する。

現代思想のなかの民主主義をみるために、デリダ、ランシエール、ラクロウといった思想家らの議論を取り上げ、政治学とは異なるアプローチからデモクラシーの可能性に迫る。

20世紀の民主主義論は様々な仕方で展開され、互いに相容れない見方もあるが、それらは民主主義という多面体の結晶に異なった入射角で光を当てていると考えるべきだろう。本書は、この多彩なプリズムのなかで民主主義をとらえ直し、21世紀の民主主義を描き出す試みである。

20世紀の終わり頃から、民主主義論で熱心に交わされた熟議/闘技パラダイム論争のあとの、21世紀の民主主義の展開としていくつかの潮流を紹介する。
エストランドなどによる「認識的デモクラシー」は、人々が認識的機能を行使することによって、民主主義がよりよい決定を導くことができるとする議論であり、一般市民の知性を肯定するものと言える。

「ステークホルダー・デモクラシー」は、政治参加の要件を国家や地域社会への所属に求めるのではなく、そのイシューの「ステークホルダー」であるかどうかによって考えるものである。ステークホルダーとは、株主、従業員、消費者、さらには地域社会など、いわば企業に対する利害関係者のことである。

この理論で重要な意味をもつのが「被影響利害原理」である。これは、決定事項から影響を蒙る人こそが決定に参加する権利を持つべきであるという考え方であり、この理論の根本原理と言ってもよい。しかし、「被影響性」や影響の「不確定性」の解釈、ステークホルダーの「発言力」の配分方法などが問題になる。

「ケアの倫理」は、他者に関心を持ち、相互に依存した関係を前提にした人間関係を求めている。リベラリズムが想定する自立した主体像は、ケアを必要とする「依存する存在」を排除してきた。ケアの倫理はこれを批判する。ケアの倫理にもとづいた社会の構想は、リベラリズムの原理に依拠してきた自由民主主義に大きな挑戦を突き付けている。

21世紀の民主主義の展望として、国会や議会だけが政治の場所ではないし、指導者や政治家だけが民主主義のアクターではなく、選挙だけが政治参加のすべてではない点が重要である。民主主義を狭い了見から解放し、一層日常にリンクした活動として評価し、市民一人ひとりの役割を再確認するものである。

民主主義の困難は、新しい民主主義の発想が生まれるきっかけでもあった。言い換えれば、民主主義の危機は民主主義によって克服されてきたのである。従って、21世紀の民主主義の構想は、現在の危機を前に踏みとどまり、事態をつぶさに観察できるかどうかにかかっている。それがどのような形をとるのか、その見取り図は、まさに私たち自身のこれからの課題だろう。


| HOME |


Design by mi104c.
Copyright © 2023 個人出版コミュニティ, All rights reserved.