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 松宮敏樹著「こうして米軍基地は撤去された」を読んだ。本書は、フィリピン上院による在比米軍基地撤去の決定(1991年9月16日)という歴史的事件とその背景をまとめたものである。本書で強調されているのは政治家の姿勢である。フィリピンの上院議員多数は、米軍基地がフィリピンの主権を侵害し、自主的平和的な外交への妨害物だと主張した。

日本では米軍基地撤去といえば、アメリカにたてつくとんでもない主張とみるむきがあるが、そういう考え方こそ卑屈で異常なのである。フィリピンには「AMERICA'S BOY」縮めて「アムボイ」という言葉がある。アメリカの言いなりになる政治家、従順な政治家、アメリカに魂を売った政治家という意味が込められている。これは軽蔑の言葉である。歴代の日本政府の指導者や、アメリカに言うべきことを言わない政党に、この言葉が当てはまる。

本書には、米軍基地撤去を求めたフィリピンの上院議員12人の議会演説も紹介されている。議員の率直な考え方が示されており、歴史の決定的な局面に立った彼らのギリギリの思いが込められている。正しく、威厳に満ちた、格調高く、熱のこもった言葉に感動させられた。日本の政治家とは品格が違うと感じた。

フィリピン上院の決定前に、「米軍基地を撤去したらフィリピンはつぶされる」という不安が国民の間にあった。アメリカに仕返しされて経済的に破綻する。東南アジアに「力の空白」が生まれて戦争になる―。まるでこの世の終わりがくるような様々な「不安」が掻き立てられた。日本で「安保条約がなくなったら」「米軍基地がなくなったら」として、流される宣伝とまことによく似ている。しかし、そんな不安は全く杞憂だったことが事実で立証された。

経済で言えば破綻どころか、逆に撤去後フィリピンはGDPの実質成長率をとってみても著しく伸びたのである。91年はマイナス0.6%だったが、92年は0.3%、93年は2.1%、94年は4.3%にもなった。対米輸出額も95年で撤去時より約4割も伸びた。
米軍基地がなくなったからといって、他国に攻め込まれたり、戦争が起きたわけでもない。基地撤去後、フィリピンは非同盟諸国会議の加盟国となり、アメリカ一辺倒の外交から脱却した。東南アジア非核地帯条約も、ASEAN首脳会議で調印された。

1947年に結ばれた米軍基地貸与条約の期限切れの日(1991年9月16日)までに、新比米基地条約「比米友好協力安全保障条約」が上院で批准されなければ、在比米軍基地は法的根拠のない「不法滞在者」になってしまう。新条約は米軍基地使用を2001年9月まで10年間延長し、その後の使用についても協議できるというもの。事実上の無期限延長に道を開く内容である。

フィリピン憲法によると、条約の批准には上院(本来24議席だが1人欠員)の3分の2、つまり16議員以上の賛成が必要。逆に言えば、8議員が反対すれば批准できない。1991年9月16日午後8時10分、上院議員たちの態度表明演説が終了し、第三読会での最終的な採決が行われ、反対12、賛成11で、条約は拒否された。

フィリピンの著名な歴史家、レナト・コンスタンチーノ氏は著書「フィリピン民衆の歴史」のなかで次のように述べている。「フィリピン人は、彼らの歴史全体を通じて四たび『解放』される不幸にあった。最初にスペイン人が来てフィリピン人を『悪魔の虜』から『解放』し、次にアメリカ人が来てスペイン人の抑圧から彼らを『解放』し、次いで日本人がアメリカ帝国主義から彼らを『解放』し、そして再びアメリカ人が日本のファシストから彼らを『解放』した。『解放』の後で、常に彼らは外国人の『恩人』が彼らの国を占領するのを知った」。

ここで痛烈に批判されているように「解放」とは、侵略者にとってまことに都合のいい論理である。日本では今なお、この「解放」論を持ち出して、かつての侵略戦争を合理化し、美化する勢力が存在する。

条約に反対した12人の演説の論点は次の通りである。
1フィリピン憲法違反の条約
 憲法の非核政策と米軍基地との矛盾が厳しく批判された。憲法に対する擁護意識は、日本の国会とは違う。日本では安保条約の強化に伴う「憲法違反」を追求する政党が共産党以外にない。

2国家主権を侵す米軍基地
 外国軍事基地を置くことがいかに国の主権と独立を侵すかという点についての深い認識を示す。さらに米軍基地がアメリカの防衛・軍事力投射のためにあるのであって、フィリピンを守るためにあるのではないとの認識を示す。この認識が日米安保条約を持つ日本にはないことが問題である。

3外国支配から自由な未来
 米軍基地を撤去した後のフィリピンの展望の豊かさを強調する。マセダ議員は「われわれは外国支配から自由な未来、自分自身の二本の足で誇らしげに立つ国、しみったれの金持ちのパンくずを潔しとしない国を夢見る権利を持っている」と訴えた。日本は外国支配に耽溺する人間達が国を支配している。


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