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 布施裕仁著「日米同盟・最後のリスク」を読んだ。本書は、日米安保条約は日本を守るために存在しているという旧来の「安保神話」は、世界史レベルの大変動期である「米中対立」の時代にはもはや通用しないことを、日米同盟の歴史的変遷並びに現時点での重大なリスクを通じて明らかにし、米中戦争に巻き込まれる最大のリスクを乗り越える方策を提言している。

内閣府の世論調査では約八割が、日米安保条約は日本を守ってきたし、今後も日本を守るために必要だと考えているが、アメリカ政府の公文書には「在日米軍は日本を守るために駐留しているのではない」と、はっきり書いた文書がいくつもある。旧安保条約締結以降、結果的に一度も外国からの武力攻撃を受けなかったという「過去の実績」は、現在の安全保障環境においてはまったく通用しない状況に急変しつつある。

日本の安全保障をめぐるリスクの一つは「敵基地攻撃能力の保有」であり、もう一つは米軍の新型中距離ミサイルの日本への配備計画である。この二つの問題は一つのものととらえるべきで、日米が一体となって敵基地を攻撃するための新型中距離ミサイルを2023年以降に日本全土に配備する計画である。

今後、アメリカおよびその同盟国と中国・ロシアの対立が一層激しくなることが予想される。米露対立の主戦場は欧州だが、米中対立の主戦場は東アジアであり、米中戦争になれば新型中距離ミサイルを配備した日本に中国のミサイルが撃ち込まれ、日本の国土が「戦場」となるリスクが格段に高まる。最悪の場合、核ミサイルの打ち合いにまでエスカレートする危険性すらある。

この最悪のシナリオを回避するためには、日米同盟のリスク・コントロールに努力しなければならない。日本政府は米軍の中距離ミサイル配備によって「抑止力が高まる」「米中にミサイル戦力のギャップがあるほうが危険だ」と国民に説明するだろう。しかし日米同盟には「抑止力」というベネフィット(便益)があるのと同時に、様々なリスクも存在する。最大のリスクは、日本が武力攻撃を受けていないのに、アメリカの戦争に日本が巻き込まれ、最悪の場合、核戦争にすらつながりかねない最大のリスクとなっている。

基地問題の第一人者である沖縄選出の参議院議員・伊波洋一氏は、南西諸島への自衛隊配備は島を守るものではなく、逆に島を戦争に巻き込むものだと強く警鐘を鳴らしている。この配備はアメリカの対中軍事戦略に基づいて進められており、アメリカが主眼としているのは「日本防衛」ではなく「台湾防衛」だという。

その根拠の一つは、米海軍大学のトシ・ヨシハラ教授とジェームズ・R・ホームズ教授が2012年に発表した「アメリカ流非対称戦争」と題する有名な論文である。この論文には、南西諸島の島々に日米がミサイルを配備して中国軍の太平洋への進出をブロックすることができれば、「台湾有事」でアメリカは有利に戦いを進められる、との見解が述べられている。日本政府が南西諸島への自衛隊配備の最大の理由とする「尖閣」には、一言も触れていない。

アメリカの戦略は、日本ではなく台湾を始めとするアメリカの権益を守るために日本を戦場にするというもの。アメリカの計画は、日本が中国のミサイルで攻撃されることを前提に、ミサイル部隊など一部の部隊を残して空軍や海軍の主力部隊はいったんグアムやハワイなどに下げるというもの。一方、 日本人は逃げられず、逃げ場のない離島は戦争になったら住民は全滅する。

米インド太平洋軍が2020年3月に米議会へ提出した戦力強化計画に関する報告書には、独自の地対艦ミサイルを第一列島線上の島々に配備することがはっきり書かれている。これは島を防衛するのが目的ではなく、洋上の米軍の艦船や航空機を防衛するのが主な目的とされている。

ロシアとのINF条約を廃棄したアメリカは、今後日本を含むアジアに、これまで禁じられていた「核も搭載可能な新型中距離ミサイル」を、大量に配備する計画を立てている。射程500~5500キロの中距離ミサイルを日本全土に配備すれば中国本土全体への攻撃が可能となる。そうなれば当然中国はそのミサイル基地を攻撃目標とする。「標的」となる場所が多ければ多いほど、中国に軍事的なコストを課すとともに、味方のミサイルが残存する比率も高くなるというのがアメリカの「戦略」である。

アメリカにとって最も重要なのは、インド太平洋地域におけるアメリカの国益と覇権を守ることであり、中距離ミサイルの日本配備もそのための一つの手段に過ぎない。アメリカにとっては、最終的に中国に勝利することが重要であって、日本が中国から攻撃を受けることはそれほど大きなリスクとは考えないだろう。しかし、日本にとっては、国土が攻撃(最悪の場合は核攻撃)を受けることは国民の生命に関わる大きなリスクだ。しかもそのリスクを負う地域は、日本全土に及ぶことが想定される。

日本人に深く浸透している「日米同盟は日本防衛のためにある」という、事実とは異なる「神話」が「いざという時はアメリカが守ってくれる」という幻想を生み出し、日米同盟が内包する重大なリスクに目をつぶる結果となっているのである。日米同盟のリスクを正確に理解するためにも、「安保神話」から脱却する必要がある。そのために、本書では日米同盟が日本防衛のために存在しているのではないことを証明するファクトを、日米同盟の歴史を年代ごとに示している。

題目を挙げれば1960年代の三ツ矢研究、1970年代の日米共同作戦計画、1980年代のシーレーン防衛、1990~2010年代の日米軍事一体化、2010年代~の米中対立と核ミサイル戦争である。内容提示は省略する。

元防衛庁官房長の柳澤脇二氏は、米中戦争に日本が巻き込まれないためには、在日米軍基地の使用を拒否し、自衛隊による後方支援を一切しないという選択をする以外にないが、それは「究極の選択」だという。

つまり、「日本がアメリカの軍事行動に一切協力しないとなったら、日米の信頼関係は崩壊し、日米同盟の終焉ということになる。日本に中国のミサイルが飛んでくるのと、日米同盟を維持するのと、どっちが大事かというぎりぎりの選択をしないといけなくなる」。そのような状況をつくらないためにも、「米中が間違っても軍事衝突を起こさないよう、仲介外交をするほかないのだろう」と言う。身近に存在するASEANが「仲介外交」の手本になる。

いまや安全保障の主流は、軍事同盟から地域の国すべてが参加する「地域安全保障機構」にシフトしている。2011年には「アメリカから自立した地域統合」を目的とした「ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体(CELAC)」がキューバを含む中南米のすべての国が参加して発足した。

日本とアジアの平和な未来を築いていくための五つの提言をする。
①米中の衝突を防ぎ、覇権なきアジアを目指す仲介外交を
ASEANとも連携して、「覇権争い」を激化させる米中両国に対して自制を求め、対話と協力を促していく。

②尖閣での衝突回避を
2014年11月に両国政府が確認したように、日中間に「異なる見解」が存在している事実を認め、対話と協議を通じて情勢の悪化と不測の事態を回避するという合意を基礎に、粘り強く対話と協議を続けていくことが重要である。

③安全保障対話のテーブルを
北東アジアにはASEANのような地域の安全保障について多国間で話し合う枠組みが存在しない。ただ、北朝鮮の核問題を話し合うために、アメリカ、北朝鮮、中国、日本、韓国、ロシアが「六か国会議」という枠組みを設けたことがある。こうした安全保障対話のテーブルを定期的に開くよう、日本が提唱するのも一つのアイデアだ。

④核・ミサイルの軍備管理の枠組みを
最善のシナリオは、米中露の三カ国で新しいINF(中距離核戦力)全廃条約を結ぶことだが、これは容易ではない。なぜなら、全般的な軍事力でまだアメリカに劣る中国が優位に立っている数少ない分野のひとつが、中距離ミサイルだから。

米中露の新たな核軍縮・軍備管理の枠組みを実現するには、米露の大幅な核軍縮が必要だ。それと共に、核兵器使用の可能性を低減する努力のひとつとして、核兵器の先制不使用政策の採用が重要である。中国はすでにこの政策を採用しているので、アメリカも採用すれば、核兵器をめぐる米中の緊張は緩和されることになる。オバマ政権時、日本がアメリカの核兵器の先制不使用政策に反対したことを反省し、アメリカ政府が同政策を採用するよう背中を押すべきだ。

⑤北東アジア非核兵器地帯の提唱を
中長期的には、ASEANがすでに実現している「非核兵器地帯条約」を北東アジアにもつくるというアイデアもある。具体的には、日本と韓国と北朝鮮の三カ国が「非核兵器地帯」となり、各国領域内での核兵器の開発、保有、実験、配備などを禁止する。さらに核保有国(アメリカ、中国、ロシア)に対しても「非核兵器地帯」内での核兵器の使用と威嚇を禁止する。目指すのは、米中の協調を軸に、インド太平洋地域のすべての国々が対等に協力し合う地域安全保障機構の実現である。


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