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 本書はNHKスペシャル・シリーズ2030 未来への分岐点として制作された三つの番組を書籍化したもの。テーマは地球温暖化、水・食糧危機、プラスチック汚染である。

1 地球温暖化
「1.5℃目標」を達成するために残された時間は10年余りしかない。温暖化研究の世界的権威ロックストロームの「ホットハウス・アース理論」によれば、気温が「+2℃」に近づくと、地球のシステムが臨界点を超えてしまい、温室効果ガスの排出をゼロにしても温暖化は止まらず、最終的に「+4℃」に達し、”灼熱の星”と化した地球では、深刻な熱波の発生、グリーンランドや南極の氷床融解による海面上昇、強力化台風による豪雨災害などによって、膨大な数の人間が住処を追われるという。
さらに、シベリアなどの永久凍土融解により、封じ込められていた古代のウィルスがよみがえる可能性がある。その中にはヒトに感染し病原性を持つものもあるかもしれない。

「+4℃」条件下のシミュレーションでは、台風による降水量によって首都圏を流れる荒川に、国が想定する最大規模の流量の水が押し寄せ、荒川が決壊すると12時間で浅草周辺は深さ1メートルの浸水、秋葉原ではビルの1階部分が水没し、都市機能は完全にマヒする。浸水は広範囲で2週間以上続き、死者は2300人と推定される。

新ヨーロッパ委員会は「欧州グリーンディール」を最優先政策に掲げた。2050年までにEU域内の温室効果ガス排出をゼロにすることを目指す。さらに2030年時点での温室効果ガス排出の削減目標を40%から55%に大幅に引き上げた。
欧州グリーンディールはカーボンニュートラル実現のための行動計画と言うだけでなく、温室効果ガス排出削減に寄与する産業を振興し、温暖化対策の強化を経済成長につなげる成長戦略である。2030年までに官民で少なくとも1兆ユーロ(120兆円)規模の投資を行うとしている。

2 水・食糧危機
 国連の「世界の食糧安全保障と栄養の現状2021」によれば、異常気象やパンデミックによる経済の減退が深刻さを増し、最大で8億1100万人が飢餓に陥ったと推定されている。世界人口78億人の実に10人に1人以上が飢餓に陥っていることになる。
国連のWFP(世界食糧計画)は「新型コロナウィルスの流行がもたらした途方もない困難は、私達の食糧システムの脆弱性を明らかにした」と述べている。

飢餓の根本原因、食糧システムの脆弱性とは”飽食”であり、飽食は食品廃棄物という膨大なひずみを生んでいる。2020年4月農林水産省発表の資料によると、食品関連事業者から出される食品廃棄物は752万トン、一般家庭から783万トンが排出され、そのうち可食部分いわゆる食品ロスは合計で612万トンにも上る。WFPが1億1500万人を支援するために配った食糧420万トンの1.5倍にあたり、2億人近い人を救える量だ。そして世界全体になると、問題の規模はさらに大きくなる。

カロリーベースでの世界の食糧供給状況を見ると、地球上の全人口を養えるくらい十分な量が生産されている。それなのに飢餓が起き、解決できないのか。その最大の原因とされるのが、食料資源の分配の失敗である。これこそが「食糧システムの脆弱性」と言われる根源的な問題である。その象徴的な問題の一つが肉食である。食肉は地球上の資源をより多く使うことで生産される食品だからだ。肉には大量の水資源も使われている。例えば1キロの牛肉に必要な水は、1万5500リットルに及ぶ。肉だけでなく水を多く使うものの一つにコーヒーやワインなどの嗜好品がある。

現在75億の人口が2050年に100億を超える地球では、先進国や新興国で大量消費を維持したまま全世界の人口を養おうとすると、現在の5割の食糧増産が必要になる。しかし、そのために農地を拡大させると、二酸化炭素の排出量が急激に増えてしまう。しかも現在、既存の農地でも緑の革命の弊害として土壌劣化が進んでいる。

温暖化による気象災害や水不足、穀倉地帯の同時不作などによって食糧不安が世界に広がり、輸出停止が各国に連鎖する大規模なフードショックが起きると、食糧暴動などの危機が拡大する。モーテ博士のシミュレーション「統合モデル」によれば、資源利用の格差が社会の安定性を決める重要なファクターになることが分かった。食料などの資源の偏りを放置し続けた社会は、ほぼ確実に崩壊する。労働層(Labor)が最初に崩れていき、下の大多数の上に富裕層が乗っかていて、最後に崩れるという「Lラインの崩壊」現象である。

3 プラスチック汚染の脅威
 年間4億トンのプラスチックが使用され、そのほとんどが使い捨てである。リサイクルされるのは全体の9%、焼却処理されるのは12%、廃棄されたプラスチックの約8割はごみとしてそのまま地球上に積みあがっている。そしてその一部が海へと流出し続けている。海洋生物によるプラスチックの摂食は年々増加の一途をたり、2020年時点で海鳥180種、魚427種を数える。

5ミリ以下のマイクロプラスチックが魚介類に悪影響を及ぼす閾値は、1㎥中1000mg以上で、摂取し続けると体は大きく成長できず、遊泳能力も落ち、繁殖能力も低下する。また食物連鎖を通じて人体にマイクロプラスチック取り込まれると、プラスチックに含まれる添加剤や海中で吸着した有害化学物質が体内で溶け出し中から攻撃する。

さらに、マイクロプラスチックがひび割れ、突起が剥がれ落ちてできる1μm以下のナノプラスチックは、小さすぎて検出が難しく、膨大なナノプラスチックが海や川を漂い続けている可能性がある。ナノプラスチックの人体への影響を検証した実験例では、母親の胎盤に蓄積する可能性が判明した。蓄積が実際に起きれば、必要な栄養素やホルモンが十分に届かず、赤ちゃんの発育に悪影響が出るリスクがある。

プラスチック削減の基本方針として、リデュース(削減)、リユース(再使用)、リサイクルの頭文字をとって「3R」という。最初のリデュースが最優先事項、社会に出回る総量自体を減らすことが何よりの解決策なのだ。


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