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 斎藤幸平編「 未来への大分岐」を読んだ。本書は現代社会の危機を好機に変えるために、多くの人々が団結できるような新しい社会の展望を提示するための第一歩として、マイケル・ハート、マルクス・ガブリエル、ポール・メイソンという、危機に立ち向かい、この先を見つめる知識人たちとの対話を通じて、未来を創る方法を探っている。

資本の利潤率低下による資本主義の危機は1970年代から直面しており、資本蓄積の危機を先延ばしする新自由主義や、社会民主主義的政策による福祉国家への回帰では乗り越えることができない。資本主義に終止符を打ち、新しい社会=ポストキャピタリズムを構想することが必要。

欧米の政治的リーダーたちの背後には新しい社会運動が存在し、両者の相互的な学び合いが社会を変える力になっている。日本では新しいリーダーや新しい政策の必要性が叫ばれ、選挙政治に固執して優れた政策を提唱する専門家と政治家が手を組めば、選挙に勝ち社会はよくなるとの考えが強く、社会運動との結びつきはむしろ忌避される。

「コモン」とは、民主的に共有されて管理される社会的な富のことである。「コモン」を民主的に管理するという経験こそが、本当の意味での民主的な政治の具体的な輪郭を与えてくれる。地球というエコシステム全体を「コモン」として考えれば、地球の未来を決めることができるのは、私的所有でも私的所有者でもない。それは国家ではなく私たち全員だから地球環境について決定する、民主的で新しい仕組みが必要である。

自明の事実や普遍的な意義のある概念を認めず、「ポスト真実」という真実がいくつも存在するという見方の相対主義は、間違っているというだけでなく、民主主義にとって非常に危険な考え方である。人権や民主主義など、私達が自明だと考える価値が、時代や場所が異なる状況下においては、妥当性を失うという相対主義者の主張は正当化できない。

新実存主義は、相対主義に反対し、事実そのものを擁護すべきだという議論を立てている。懐疑主義と相対主義に陥ることを避け、哲学の復活により日常生活における経験を擁護するものである。旧実在論は人間の意識から独立したものだけが存在していると考えるが、新実在論はそれだけではなく人権や道徳、民主主義などすべてのものに対して実在論的な態度を一般化する。
あらゆる領域を包括する単一世界は存在しないが、日々の生活の中で私たちの態度を合わせることができる領域即ち「意味の場」がたくさん存在する。しかし、存在するものすべてが真実であるとは限らない。

現代社会の危機を乗り越える道は、脱資本主義、つまりポストキャピタリズムの社会を作ることである。18世紀末に始まった産業資本主義は技術発展を加速させることで、モノが社会に有り余るほど生産性を上昇させてきた。技術革新によって引き起こされる利潤率の低下によって、ついにコンドラチェフの波(景気循環)が終わる。近い将来、生活に必要なあらゆるモノやサービスが、IoTを中心とする情報技術を使って生産コストを下げ、低価格で潤沢に供給できる「潤沢な社会」へ移行する。

情報技術の経済社会への影響が、ポストキャピタリズムへの道を切り開く仕組みは、以下の4点にまとめられる。①限界費用ゼロ社会の到来が資本主義を終わらせ、ポストキャピタリズムへと導く、②高度なオートメーション化が労働時間を短縮し、余暇を増やす。それと並行して情報技術が労働の定義を変え、労働と余暇の関係も変えていく、③インターネット上での人々のつながりが、新しい実用性・効果を創出する正のネットワーク効果=正の外部性、④情報の民主化

これら4つの要因の影響をまとめると、情報技術の発展によって、利潤の源泉が枯渇し(①)、仕事と賃金は切り離され(②)、生産物と所有の結びつきも解消され(③)、生産過程もより民主的なものになっていく(④)。その結果、人々が強制的・義務的な仕事から解放され、無償の機械を利用して必要なものを生産する社会が生じる。そして、100%再生可能エネルギーと天然資源の高いリサイクル率が実現される「潤沢な社会」となる。

資本家が不良債権危機と経済停滞を克服しようと情報技術の発展を推進するならば、ポストキャピタリズムへの移行を助けることになる。何もしなければ危機と停滞は続く。資本主義から完全に抜け出すことなく情報経済に移行することは最悪で、債務危機は解決せず、いずれ破綻してしまう。瀕死の状態にある現代の資本主義が直面しているのはこうしたジレンマである。

ポストキャピタリズムへ導く4つの要因に抵抗する資本の動きがある。①市場の独占―限界費用ゼロ効果に対する抵抗、②プルシットジョブ(クソ下らない仕事)―オートメーション化に対する抵抗、③プラットフォーム資本主義―正のネットワーク効果への抵抗、④情報の非対称性をつくりだす―情報の民主化への抵抗

ポストキャピタリズムという未来に向けた論点をまとめると、①独占とレント・シーキングを禁止し、積極的な投資を行うことで、情報技術産業の活性化、オートメーション化や再生可能エネルギー100%への道を切り開くことができる、②AIの暴走を防ぐために、普遍的倫理を「人間とは何か」を定義するヒューマニズムに基礎づけなければならない、③市場や国家の完全な廃棄を目指す古い社会主義とは違って、ポストキャピタリズムは、市場や国家の存在する余地のあるハイブリッドモデルである。

 ヤシャ・モンク著「民主主義を救え!」を読んだ。本書は、四つの観点から私たちが経験している新しい政治の風景を明らかにすることを試みたものである。1リベラル・デモクラシーの要素分解、すなわち、非リベラルなデモクラシーと非民主的なリベラリズムへと分岐、2私たちの政治制度に対する深刻な不信=リベラル・デモクラシーの危険な実存的危機、3この危機の源泉、4破壊されつつある社会的、政治的秩序を取り戻すために何が真に有益かを論じる。

非リベラルなデモクラシーの代表的なものはポピュリズム(例・ポーランド)であり、非民主的なリベラリズムの典型は権威主義的な統治体制(例・EU)である。リベラルな民主主義の例としてカナダを、非リベラルな非デモクラシーの例としてロシアを挙げている。強いリーダーへの支持が高まっている今日、アメリカでは軍事支配への支持が全世代で16%、18~24歳の若年層で24%に達する。

リベラル・デモクラシーの危機の源泉としては、1インターネットとソーシャルメディアの台頭により、伝統的なゲートキーパーであるマスメディアは弱体化し、周辺化されていた運動や政治家を勢いづかせることになった、2現在、生活は苦しくなり、将来はさらに悪化するのではないかとの恐怖に駆られている、3単一国家あるいは特定のエスニック集団による支配が現在揺らぐようになっている―の3点が考えられる。

リベラル・デモクラシーの衰退を食い止めるためには、包摂的なナショナリズムの構築、税制を含む経済政策の見直し、そして市民的な徳を強化し、市民はリベラル・デモクラシーの原理を死守するために今一度戦わなければならない。


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