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 金子勝著「平成経済 衰退の本質」「平成経済 衰退の本質」を読んだ。本書は「失われた30年」となった「平成」時代を振り返り、その「衰退の本質」に迫ることを目指す。(1)データで経済衰退の実相を明らかにし、(2)先進諸国の経済政策の変遷をたどり、(3)周回遅れで「新自由主義」的政策を採用しては失敗を繰り返し、財政金融政策でごまかしてきた日本の経済政策の変遷をたどり、(4)この衰退のメカニズムを作り出した誤った政策の集約点としてのアベノミクスが経済破綻を導く危険性を指摘し、(5)新しい産業と社会を創出するために、どのような経済政策に転換すべきかを論じ、最小限必要なオルタナティブを提示する。

資本主義は大きく変わった。世界中に投機マネーがあふれ、10年周期の景気循環がバブルとバブル崩壊を繰り返す「バブル循環」を起こすように変質した。「平成」時代はバブル崩壊から始まり、その処理に失敗してから「長期停滞」の時代になった。「平成の30年」はそのまま「失われた30年」と重なり合う。

1971年にドルと金の結びつきが断たれて以降、国際通貨は「紙幣本位制」とでもいう「管理通貨」制度になり、国際通貨制度はスミソニアン協定を経て変動相場制に移行した。「紙幣本位制」になると、実物経済との関係が断ち切られるので、通貨発行量に関して歯止めを失いがちになる。それはバブル依存症を生み出す原因となる。
不況の度に創り出される大量のマネーが投機マネーとなって暴れだす。その結果景気循環は、実体経済が主導する景気循環から、株や土地住宅の価格が主導するバブル循環へと変質した。

日本の経済成長率が失われた最大の原因は産業衰退にある。その背景には、無責任体制が作り出した「失われた30年」の間に、研究投資額がアメリカや中国に大きく引き離され、産業の国際競争力がどんどん低下していることがある。
問題の起源は、1986年と91年の日米半導体協定にさかのぼる。86年の協定ではダンピング防止で価格低下を止められ、日本製半導体のアメリカへの輸出が食い止められたため、半導体産業は徐々に競争力を失っていった。さらに91年協定では外国製半導体の二割という輸入割り当てを強いられた。

日米構造協議以降、アメリカの圧力を受け、バブル崩壊後の不良債権処理のもたつきと相まって、日本は先端産業である情報通信産業において決定的に取り残され、電機産業の国際競争力も衰退していった。

福島原発事故に対して政府は不良債権処理の時と同様に、その責任を回避することに執心して、原発の再稼働と原発輸出に突っ込んでいった。それが重電機産業の経営を困難に陥れている。安倍が多額の税金を使った原発セールス外交はことごとく失敗に帰し、原発という不良債権がどんどん積み上がっている。
金融緩和はツケを先送りするだけでなく、ゾンビ企業を救済し続けるだけで、”麻酔漬け”となっている間に新しい産業構造への転換を遅らせていく。さらにマイナス金利で銀行は貸付金利収入が大きく落ち込み、リスクをとって新しい産業や技術に貸し付けることができない。

2012年12月に第二次安倍政権が発足し、政策は景気対策としてのマクロ経済政策に振れた。「周回遅れ」でないように見せるため、今まで失敗してきた政策をすべて寄せ集めた上に、その規模を異常に膨らます形をとった。安倍政権は異次元の金融緩和を中心に、財政出動、規制緩和中心の成長戦略という「三本の矢」を掲げ、それを「アベノミクス」と呼んだ。アベノミクスは「出口のないネズミ講」である。

安倍は小泉や橋下、小池が使った扇動型のポピュリズム的手法を使いこなすほど演説や答弁の能力が高くない。むしろ積極的に行動しない、投票には行かない、無力感とニヒリズムというマイナスの感情を引き出すという特異なポピュリズムを展開している。投票率が低下すればするほど強い組織票を持つ公明党の力が発揮され、多数の議席を独占できるからである。そこで、極めて凡庸な三世議員でもできるポピュリズムが展開されていく。

1バラマキのポピュリズム
 「紙幣本位制」の下で通貨発行量を無限に増やして見せかけの景気を作り出し、極端なバラマキ政治の形をとる。それは旧来の古い産業利害を潤す方向を向いている。日銀が株や不動産投資信託を買うという異例の政策をとって官製相場を作っている。つまり中央銀行が先頭に立って、株バブルと都心の不動産バブルを作り出す。それが内閣支持率を支える政権の生命維持装置になっている。 
日銀が赤字財政をひたすらファイナンスするポピュリズムの政策は、「失われた二十年」の間そうだったように、決して経済成長をもたらさない。

2みせかけのポピュリズム
 安倍は答弁や演説能力が低いので、代替として次々とスローガンを繰り出す「スローガン政治」を展開する。しかもそのほとんどが政策目標を達成できていない。目まぐるしく「改革」のスローガンを変えることで、成果がないことを検証させないようにしている。”やってる感”を演出するだけのデマゴギー政治になっている。それが極めて悪質なのは、他方で選挙公約にない秘密法、戦争法、共謀罪法などの強行採決を覆い隠す役割を果たしているからである。外交も同じような役割を果たしている。

3無力化のポピュリズム
 安倍政権は人々を煽る扇動型ではなく、人々を諦めさせる黙従型の衆愚政治である。大臣の不正や官庁の公文書・データの破棄とねつ造、まともな審議なしの欠陥法案の強行採決が繰り返されても「またか」と慣らされていく。それによって諦めとニヒリズムというマイナスの感情が引き出される。投票も議会も事実上必要ないことに人々を慣らしていくプロセスが進められている。
安倍は当面の政権維持のために「我が亡き後に洪水よ来たれ」という究極の無責任に陥っており、行き着くところまで行く政策からは未来に明るい展望は出てこない。状況は次第に敗戦濃厚な戦時財政と似てきており、日本の経済と社会を破滅に追い込んでいく危険性が高まっている。

日本が直面しているのは、経済衰退を食い止めて経済持続可能性を回復しながら、いかにして新しい産業と社会システムを創り出すかという課題である。
1社会基盤として透明で公正なルールが不可欠
 そのためには少なくとも与野党伯仲、参議院における与野党逆転を実現することが必要である。そしてアベノミクスがもたらすリスクを正しく指摘し、それに代わって日本経済の持続可能性を取り戻す経済政策を創出し、共有することによって、野党連携を強力なものにしなければならない。

2教育機会を平等に保障する
 若い世代の教育機会の喪失は格差を固定化し、社会の新陳代謝を失わせる。知識集約型産業へ移行する中では、若い世代に平等に教育機会を与え、基礎研究・基盤研究の立て直しをすることが喫緊の課題になっている。

3産業政策とオープン・プラットフォームを作る
 ①産業の国際競争力を低下させてきた経産省の業界利益追求型体質を解体する、②先端産業に関して産業戦略を策定する、③研究開発のための企業・研究機関横断的なオープン・プラットフォームを作り、若手研究者・技術者の育成と活躍の場を提供する、④情報公開と決定プロセスの徹底的な透明性、公正なルールを保証する、⑤持続的に財政資金でイノベーション研究開発投資を支援する

4電力会社を解体する
 日本のエネルギー転換が決定的に遅れていることが問題。再エネの拡大が喫緊の課題だが、最大の既得権益である原子力ムラが岩盤となって進まない。エネルギー転換を促すには、速やかに電力会社を解体することが必須である。具体的には、発電会社と送配電会社を完全に分離する方式である所有権分離を実行することである。

5地域分散ネットワーク型システムに転換する
 電力システム改革を突破口にして、持続可能な発展を実現するため、地域から逃げない資源や人間のニーズに基礎を置いた産業(エネルギー、食と農、福祉)において雇用を創出する。それを基礎にして、インフラ、建物、耐久消費財などでイノベーションを引き起こす。

6時間をかけて財政金融の機能を回復する
 国債買い入れ政策については、満期の近い期近ものにかえていくことで、日銀資産の縮小を徐々に図っていくしかない。金利引き上げによる借款債の金利上昇対策として、特別勘定を設け、超長期債を発行し、そこに事実上「凍結」する。一方、財政破綻を防ぐために、防衛費や公共事業費に偏った歳出の見直しと、環境税や法人税の中立・簡素化や所得再配分を強める増税などで、とりあえずプライマリーバランスを回復することによって、財政の持続可能性を回復しなければならない。

これらの課題は、1990年代初めのバブル崩壊以降、長い間の「無責任の体系」によって積み上がってきたものであり、その解決は容易ではない。しかし、もはや今を持たせるために、未来にそのツケを先送りすることはできなくなりつつある。その意味で、アベノミクスは「終わりの始まり」である。われわれに残された時間は多くない。


 半田滋著「先制攻撃できる自衛隊」を読んだ。本書は安保法制の施行による自衛隊の変化、2018年に閣議決定され、2019年4月から実施の「防衛計画の大綱」「中期防衛力整備計画」による自衛隊の軍隊化などを具体的な事例をもとに説明している。
軍事は絵空事ではない。もはや憲法改正を待つまでもなく、「戦争できる国」になった日本。本書によれば、憲法改正の阻止だけを訴えていたのでは、平和国家は取り戻せないことがわかる。

第一次安倍政権による教育基本法の改定に続き、2012年12月発足の第二次安倍政権下で、これまで国家安全保障会議(日本版NSC)発足、秘密法、武器輸出解禁、集団的自衛権行使、安保法制(戦争法)、共謀罪法などの国家主義的政策が強行され、防衛計画の大綱(18大綱)、中期防衛力整備計画(中期防)によって、これまで持てないと断言していた大陸間弾道ミサイル、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母のいずれもが解禁された。

2018年12月18日に閣議決定された防衛計画の大綱(18大綱)のスローガンは「多次元統合防衛力」。中身は事実上の「専守防衛の放棄」で「日米一体化の総仕上げ」。もはや憲法の縛りなどどこ吹く風である。18大綱には空母保有のほか「スタンド・オフ防衛能力」が登場している。これは相手の射程から外れた遠方から攻撃することで、今後、自衛隊は長射程ミサイルなどを保有することになり、敵基地攻撃能力を持つことになる。

18大綱、中期防により航空自衛隊の戦闘機はすべて巡航ミサイルを搭載できる「戦闘攻撃機」に切り替わる。さらに妨害電波を出して敵のレーダーをかく乱させる電子戦機の保有と合わせ、自衛隊の敵基地攻撃能力は「ない」から「ある」に方向転換することになる。

我が国の防衛の基本政策は①専守防衛、②軍事大国とならないこと、③非核3原則、④文民統制の確保の4つ。第二次安倍政権以降は怪しくなっている。18大綱、中期防に盛り込まれた攻撃型空母の保有、大陸弾道弾ミサイル、長距離戦略爆撃機と同じ機能を持つ兵器の装備化を見ればもはや①②は風前の灯火である。④はイラク日報、南スーダンPKOの日報が制服組によって隠蔽、破棄されたことからみて統制が揺らいでいる。③については、2017年6月の国連総会で核兵器禁止条約が賛成多数で可決された際、日本代表は賛成するどころか、議論自体をボイコットしたことから変化の兆しがうかがわれる。

2018年10月3日発表された「アーミテージ・レポート」の10項目のうち、軍事に関わる項目を要約すると次のようになる。
①自衛隊基地と在日米軍基地の日米共同使用
②日米統合部隊の創設
③自衛隊に合同作戦司令部を設置
④日米共同作戦計画を作り、アジア太平洋軍にスタッフを派遣
つまり、自衛隊が憲法や法律などの国内基準の縛りを受けることなく、米軍の一部として相応の軍事的役割を担い、自衛隊基地も民間施設もより自由に軍事使用できるようにせよということ。
「アーミテージ・レポート」は安倍政権のバイブルだから、今後実現に向けて突き進むことは間違いない。自衛隊基地を米軍基地化する動きはすでに始まっている。

安倍が執念を燃やす改憲「9条の2を作って自衛隊を書き込む」による変化としてつぎのことが想定される。
①集団的自衛権行使など事実上の軍隊としての活動が拡大する
②隊員数を確保するため徴兵制を採用する
③予算を増加する
④今でさえ怪しい文民統制が後退する
⑤米軍との共同行動が増加する

安倍政権の6年間で秘密法、戦争法、共謀罪法の施行を通して、日本は十分に国家主義的な国家に作り変えられている。憲法改正の必要がないほど自衛隊が軍隊化している。
「憲法改正をさせてはいけない」と叫んだところで歯止めを失い、坂道を転がるようにして軍事国家に傾斜してしまった現実。問われているのは、憲法改正を食い止めるだけではなく、日本をどのようにして元の平和国家に戻していくかを考え、地道に実行していくことである。

安倍政権が終わっても安保法制を作った自民党政権が続いていく限り、これらの政策は踏襲されていく。中国や北朝鮮からの攻撃というイメージを国民に抱かせ、不安をあおって政権基盤を維持するようなニセモノはもうたくさんだ。国民の安全と平和な生活を一番に考えるまっとうな政治家を選び、次の時代のリーダーを育てていく必要がある。

 山口二郎著「民主主義は終わるのか」を読んだ。政治に関する最低限の常識とは、政治家は嘘をついてはならない、権力を利用して私的利益を図ったことが明るみに出れば責任を取って辞めるなどである。安倍政治の7年間で今までの政治に関する常識が通用しなくなった。常識の崩壊を放置すれば、自由や民主主義は失われる危険がある。

本書は、自由と民主主義の擁護という観点から、安倍政治における政治に関する常識の崩壊現象について考察し、批判の視座を構築するとともに、民主主義を終わらせないために五つの提言をしている。

日本の民主主義を脅かす要因を四つにまとめる。1三権の中の行政府、そして首相に権力が集中、2野党の危機とそれによる政党間競争の消滅、3新自由主義的経済政策がもたらした公共的世界の解体とそれによる民主主義の浸食、4個人の尊厳の否定と自由の危機という風潮。

第二次安倍政権の下で、政治と行政のバランスが崩れ、政治の絶対化が進んでいる。現代日本における政官関係に関する三つの問題。1政治的決定の過剰(法的公正の破壊)、2イデオロギーによる事実の無視(アベノミクス)、3人気取りのための政治的多動症(立法事実なしの法案成立)。

安倍政治の三つの特徴。1自分の考えに異様なほど執着する人物が権力者となり、自己を客観視することなしに好き放題をする、2他者からの批判を聞こうとせず、批判する者を逆恨みし、これを敵ととらえて徹底的に叩き潰そうとする、3敵とみなした者を攻撃する際に、嘘、虚偽、捏造などあらゆる手段を使う。

リーダーシップの劣化は、権力の私物化をもたらす。特にそれは安倍政権下の日本で顕著である。この問題は、近代的な法の支配から前近代的な家産制国家への逆行とも言える。法の支配とは、支配者が権力を行使する際には常に法の根拠に基づかなければならないという原理。家産制とは、権力者の私的財物と国家の公共物の区別が存在せず、権力者の私的な目的のために国家の財物を費消したり、権力を行使したりできる体制。

民主主義を終わらせないための五つの提言。1野党の立て直し(政策の深化、新しい政党組織の開発)、2国会の再建(国会審議の情報提供の仕組み、質問時間の配分と計算法の見直し、国民が政策論戦に参加する仕組み、二院制と選挙制度の再検討)、3官僚制の改革、4民主主義のためのメディア(放送法制、NHK制度の再検討、良質なジャーナリストの支援)、5市民の課題(正義感、正確な認識、楽観と持続性)。


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