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 デービッド・アトキンソン著「日本人の勝算」を読んだ。本書は世界一の人口減少・高齢化社会になりつつある日本が、破綻危機を乗り越え、再び一流先進国の地位を確かなものにするために取り組むべき政策を、海外のエコノミストの論文やレポートの分析結果をもとに考察し、提言したものである。

日本は人口が右肩上がりで増えるというパラダイムから右肩下がりに減るというパラダイムにシフトしたにもかかわらず、今までの仕組みを微調整して対応すれば何とかなるという、危機感が全く感じられない議論しかされていない。消費税率の引き上げなどは小手先の微調整の典型である。

日本の税収が少ないのは、日本人の所得が先進国最低水準で、それに伴って消費が少ないからである。消費税の課税対象となる消費を増やすために不可欠な日本人の所得をいかにして上げるかが、この問題の根本の議論であるべき。大きなパラダイムシフトが起きている以上、今までにない、もっと根本的かつ大胆な政策が求められている。

日本が実行すべき政策は、まずは所得を継続的に上げることである。その結果生産性が上がる。それには企業の規模を大きくする必要がある。それによって輸出もできるようになる。技術の普及も進む。所得が増えるから税収が増え株価も上がる。財政が健全化する。今の悪循環を好循環に変えることができる。

しかし経営者が自己中心的に、短期的に考えれば、簡単に所得を向上させることはあり得ないし、その実現に必要不可欠な企業の規模拡大も、自ら進んで実行するとは思えない。これまでの常識に囚われた経営者たちを変えるには、やはり政府が動き出すしかない。政府は新しいパラダイムにふさわしい経済システムを作り出す必要がある。そのためには、すべての日本企業、経営者、労働者を動かす「要石」を見つけ出さなければならない。

その「要石」は、最低賃金の継続的な引き上げである。この政策を実現しないことには、日本経済が好循環に移行することはあり得ない。日本の人材と社会制度は極めて優れているから、日本の潜在能力をもってすれば、人口減少・高齢化に対応できることは疑いの余地がない。しかし、その潜在能力を発揮するには、経済システムのパラダイムを改革しなければならない。それが嫌なら日本は破綻への道を歩んでいくしかない。

最低賃金の引き上げには生産性を上げる「強制力」がある。最低賃金が高くなると、最初に「利益」が圧迫される。しかし、増えた分の人件費を価格転嫁するのは簡単ではない。そこで経営者は、価格転嫁するためにも、利益を取り戻すためにも、生産性を高める必要性を感じ、そこに一種の強制力が働く。最低賃金を上げると失業者が増えるという新古典経済学の仮説は実際の労働市場のデータに基づく分析で否定された。

人口減少・高齢化の影響はあまりにも大きく、避けて通ることはできない。今改革から逃げても、いずれ必ず改革を迫られることになる。

この政策提言で最もネックになるのは、最低賃金向上のために動くべき日本政府の管轄部署が厚労省で、社会福祉政策の一環として進めており、生産性向上につながるような経済政策としては進めていないということ。経済政策なら経産省が管轄しなければならないが、現在の安倍政権ではそのような政策を本気で進めることが全く期待できないということである。やはり、抜本的な経済システム転換を推進するような政権に交代させるしかないだろう。


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