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 季武嘉也編「日本政党史」を読んだ。本書は近代日本における政党の歴史を概観したものである。政党は一定の政治的な主張を持つ者たちがその実現のために権力をめざす集団と定義されるのが通常である。しかし、政党は法律上で定義されることなく、1994年政党交付金制度が始まり法人格を与える必要が生じたため、基本的には5名以上の国会議員を擁する政治団体を「政党」と定義することになったが、「結社の自由」の立場からそれ以上の具体的な定義はしなかった。

現代の民主制において、政党は社会と国家をつなぐ「導管」や「水門」としての機能を果たすことが期待されているが、その機能の低下が叫ばれて久しい。90年代から顕著となっている「ローカルパーティー」(地域政党)や「ネットワーク政党」などは、政党の機能低下に対する市民レベルでの新しい試みであるといえる。

政党の機能強化という問題が、日本政治の大きな主題になる。政党は、現代の複雑な社会構造、金融危機以降の厳しい経済環境、冷戦崩壊後の流動化する国際政治に対応できる政策的創造性も身につけねばならない。そして、日本国民の期待を担い、国際社会で国益を実現し、同時に世界の繁栄に寄与できるだけの理念と政策を打ち出せる政治家を育成しなければならない。この意味での責任に与党と野党の違いはない。

しかしより重要なのは、我々有権者がもはやその新しい政党史のただの「観客」ではありえないことである。我々は、この困難な課題に挑戦する政治家を大声で応援し、「内向き」「後ろ向き」に進もうとする政治家を厳しく監視することで、この過程の主役となるのである。

ドイツの国法学者ブルンチュリは、「政党Partei」はラテン語の部分「パルスpars」に基づくことから、「より大きな全体の一部に過ぎず、決して全体であることはない」、言い換えれば「政党」は「国民の一部」を代表するにすぎず、一党が国民や国家と同一になることはあり得ないとした。だから同一国内に政党は多様に存在すべきなのであって、複数の政党は互いに真偽や優劣を問われることなく競争的に共存することになる。
反対党が存在するからこそ競合による発展が期待されるのであり、そうしたダイナミズムの中に「政党」の複雑性や他党の存在意義それ自体が見いだされる。

現在の安倍自民党一強体制は、政党の機能強化を妨害し政党の存在意義を形骸化するものといえる。我々有権者はこの体制を変革し本来の政党制を取り戻さなければならない。

 ダニエル・M・デイヴィス著「美しき免疫の力」を読んだ。本書は複雑で壮大な免疫システムの全体像と免疫学の研究の最前線を伝える。免疫システムが攻撃対象の異物のうち、体内に侵入した病原菌と食物や腸内細菌を区別する方法、高齢者の免疫機能低下の理由、自己免疫疾患の原因、がん免疫治療の仕組みなどの説明だけでなく、発見に至った思考の流れや具体的な研究、研究に生涯をささげた科学者たちの物語をつづることで、免疫学の歩みを描き、免疫概念の核心部を浮き彫りにし、科学者を魅了する美の世界を読者に垣間見せる。

免疫システムには自然免疫と獲得免疫がある。自然免疫は病原体や感染細胞だけに見られる分子パターンと結合できるように作られた決まった形状の受容体(パターン認識受容体)による単純システムで、獲得免疫は過去に遭遇した病原体の記憶として体内に長くとどまる免疫細胞(T細胞、B細胞)の受容体による複雑で精巧なシステムである。

T細胞もB細胞も骨髄にある造血幹細胞から作られ、細胞の中で受容体遺伝子の再構成により、細胞ごとに独自の形状をした受容体がランダムにできあがる。ただし、T細胞もB細胞も血液中へ旅立つ前に受容体検査を受け、健康な細胞と結合できてしまう受容体を持つ細胞は排除される。こうして免疫システムは「自己」と「非自己」を識別する。


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