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 河合雅司著「未来の年表」を読んだ。本書は人口激減社会である日本の未来図を統計データに基づき時系列に沿って体系的に描くとともに、その問題への対策を「日本を救う10の処方箋」として提示している。

日本の喫緊の課題は1出生数の減少、2高齢者の激増、3勤労世代の激減に伴う社会の支え手の不足、4これらが互いに絡み合って起こる人口減少である。認識すべきは、社会のあらゆる場面に影響をもたらす、これら4つの真の姿である。

2021年頃には介護離職が増大、企業の人材不足も懸念され、育児と介護を同時に行うダブルケアが大問題となる。2025年には人口ボリュームの大きい団塊世代が75歳以上となり、大きな病気を患う人が増え、社会保障給付費が膨張するだけでなく、医療機関や介護施設が足りなくなる。

2040年頃に向けて死亡数が激増し、火葬場不足に陥ると予測され、高齢者数がピークを迎える2042年頃には、無年金・低年金の貧しく身寄りのない高齢者が街に溢れかえり、生活保護受給者が激増して国家財政がパンクするのではと心配される。

少子化により若い力が乏しくなり、国防や治安、防災機能が低下することは、即座に社会の破綻に直結する。2050年頃には国土の約2割が無居住化すると予測される。人口減少の影響は日々の変化として感じにくいがゆえに人々を無関心にするが、真綿で首を絞められるように、確実に国民一人一人の暮らしが蝕まれていく。この事態を「静かなる有事」と名付ける。

この「静かなる有事」に立ち向かうには、出生数や人口の減少は避けられないことを前提として、社会の作り替えをしていくしかない。現実的な選択肢とは、拡大路線でやってきた従来の成功体験と決別し、戦略的に縮むことである。つまり、人口減少後を見据えたコンパクトで効率的な国への作り替えである。

「戦略的に縮む」5の処方箋
1.「高齢者」を削減
 「高齢者」の定義を現在の65歳以上から75歳以上に引き上げ、65~74歳については「準高齢者」との区分を新設し、社会の支え手として捉え直す。これによって、労働力不足も社会保障の財原問題も大きく改善する。

2.24時間社会からの脱却
 「便利すぎる社会」からの脱却、「過剰サービス」を見直すことで、不要な仕事そのものを無くす。あるいは社会全体の労働時間を短くすることで、そこに必要とされる働き手を減らす。

3.非居住エリアを明確化
 人が住む地域とそうではない地域とに国土を色分けし、コンパクトで効率的な国に作り替える。農地などを含め総合的な国土利用計画を立てられる法整備が必要。人口減少を織り込んだ「市街地縮小計画」を策定し、老巧化した公共施設は居住エリアで立て直す。宅地開発や新規店舗、道路や上下水道の補修も居住エリアを優先し、日常生活に必要なサービスを集約していく。非居住エリアは、大型農業や新産業を生み出す集積地などに転じていく。

4.都道府県を飛び地合併
 自治体の線引きを見直し、大都市部と地方の自治体の結びつきを深める。一人暮らしや高齢夫婦のみの世帯が多い大都市では介護施設の整備率は低く、在宅サービスも整っていない。一方、高齢化が先行していた地方では人口減少が進んで、高齢者も減っているため介護病床に空きが出ている。地方側は土地提供を始めとし、大都市の住民向けの介護施設整備などに協力する。代わりに、大都市の自治体が、提携する地方の自治体を、人的にも財政的にも支援する。住民レベルのボランティアや若い世代の「二地域居住」推進など、住民同士の交流も拡大する。

5.国際分業の徹底
 「大量生産・大量販売」の発展途上国型ビジネスモデルを廃し、限られた人材や資本を日本が得意とする分野に集中投入し、世界をリードする産業として発展させる。それ以外は他国に委ねる。少人数で上質な製品を造る「少量生産・少量販売」のビジネスモデルを選択する。

人口減少と高齢者増大後の日本が目指す社会のグランドデザインを描く必要があり、政治家や官僚だけでなく幅広い分野から専門家を招いて議論する場として常設の「人口減少対策会議」を提言する。

 堤未果著「日本が売られる」を読んだ。本書は、公共財産を含むあらゆるものを国境を超えた投資商品にして利益を吸い上げる多国籍企業群と、規制緩和の名のもとに多国籍企業群に加担し、水や土地、森、海、タネ、学校、医療などの国民の資産を多国籍企業群に売り渡す売国政府の暗躍を暴露した迫真のレポートである。
そして、売られたものを取り返していった各国の事例を示し、日本を売らせないための施策を提言している。

世界が水道再公営化に向かう中、日本は民営化をスタート。企業に圧倒的に有利な「水道法改正案」によって、命のインフラである水を企業が販売するビジネス商品にする。水道料金の高騰や水質劣化は避けられない。これを推し進めた張本人は安倍政権下の麻生太郎と竹中平蔵である。水ビジネスのフランス企業ヴェオリア社からいくら貰ったのかは知らないが、正に国賊・売国奴と言える。
さらにヴェオリア社は放射性廃棄物ビジネスにも乗り出す。環境省は福島原発事故の放射性廃棄物のうち8000ベクレル/kg(事故前の基準値の80倍)以下の汚染土を公共工事や公園や緑地の園芸などで再利用することを正式決定したからだ。

政府の種子法廃止と自家増殖禁止のセット導入は、グローバル企業のアグリビジネスモデルにかなったものである。これにより、南米諸国やイラクでやられたように、農家は企業の特許付き種子を、農薬と作付けマニュアル付きで買う契約をさせられるようになる。

厚労省はネオニコチノイド農薬の残留農薬基準を大幅に緩和した。この農薬は虫の神経を狂わせるため、方向感覚がおかしくなったミツバチは巣に戻れなくなって大量死する。アメリカと日本以外の世界各国はこの農薬の使用・販売禁止に動いてる。日本政府はほうれん草、白菜、カブなど40種の食品のネオニコチノイド系農薬「クロチアニジン」の残留農薬基準値を最大2000倍に引き上げた。

農薬企業最大手モンサント社の除草剤「グリホサート」(商品名ラウンドアップ)は発がん性がある。モンサントはラウンドアップに耐性を持つよう遺伝子操作された種子を開発、農家はこの二つをセットで買わされる。日本政府は日本の安全基準に引っかからないよう、アメリカ産輸入大豆のグリホサート残留基準を5倍に引き上げた。さらにEUが発がん性の証拠が不充分として規制を解除したことから、日本政府はグリホサートト残留基準値を最大400倍に引き上げた。さらに強力な除草剤「2,4-D」(枯葉剤の主成分)と枯葉剤耐性遺伝子組み換えトウモロコシを承認した。

日米FTAが締結されれば、アメリカ製の乳製品が大量に入ってくる。その中にはカナダや欧州委員会が発がん性があるとして輸入を拒否している、人工的に乳量を3割増やす遺伝子組み換え成長ホルモン「γBGH」を投与した牛のミルクも含まれる。γBGHはモンサント社が開発したもので、日本国内での使用が禁止されていて残留基準自体が存在しないため、輸入品に含まれるγBGHをチェックしていない。

2016年4月の「農地法改正」で外国企業が日本の農地を買いやすくなった。2016年、日本で買われた土地面積は202ヘクタール(ほとんどが北海道の森林)で、購入者の8割は中国系。

2018年5月の「森林経営管理法」により、自治体が森林所有者の経営状況をチェックして、「きちんと管理する気がない」とみなしたら、どこかの企業に委託してその森林を伐採できる。委託先企業として木材チップを使うバイオマス発電事業を全国展開しているオリックスがある。日本でバイオマス発電ビジネスを進める仏ヴェオリア社も同類。
機械を使って広範囲に林道を切り開くことによって、豪雨時の山崩れなどのリスクが発生し、災害に弱い町がつくられていく。

2018年6月成立の「卸売市場法改正」は公設卸売市場の民営化である。築地のような中央卸売市場を開設できるのは、人口20万人以上の自治体に限られているが、法改正で一定以上の大きさと条件を満たせば企業が開設できるようになった。整備の仕方も運営方法も、企業が独自のルールを決められるようになる。
外国企業を含む大手業者が卸売市場を開設し、自社生産の農産物を大量に仕入れ始めれば、中小の生産者は淘汰されていく。そして、企業利益を最大化するための「物流センター」にされる。

あらゆる公共サービスを民営化するという日本政府の政策は、水道だけでなく公教育もターゲットにしている。大阪市教育委員会は2019年4月、大阪YMCAに公立学校の運営を委託する「公設民営学校」を南港ポートタウンに解説することを決定。これはアメリカで企業が経営するチャータースクールの日本版である。投資の回収成績の悪い学校は容赦なく閉鎖され、非正規社員である教員はレター一通で解雇される。

公共サービスの民営化に対抗するために、世界各地で非効率な公営でも不公正な民営でもなく、市民による運営自体の民主化によって、コスト削減と充実したサービスの両方を備えた全く新しい制度が次々に実現している。
スペインのテレッサ市は、水道の再公営化を機に水道を消費する「商品」ではなく「全住民の共有財産」として位置づけ、市議と市民が連携し、共に責任をもって持続可能な水道運営をデザインしていくことを決めた。

四半期利益ではなく、100年先も皆が健やかで幸福に暮らせることの方に価値を置き、ユネスコが無形文化遺産に登録した「協同組合」の思想。それが、強欲資本主義から抜け出して第三の道へ向かおうとする人類にとって貴い羅針盤となる。


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