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 適菜収著「安倍でもわかる保守思想入門」を読んだ。本書は安倍という個人を「拡大鏡」として利用しながら、今の日本がダメになってしまった原因を追究したものである。結論的には「近代」が理解されていないからで、同義的には「保守」が理解されていないからであると述べている。

著者は安倍が「保守」の対極に位置する人物であり、大衆社会の腐敗の成れの果てに出現した「左翼グローバリスト」に過ぎないと主張しているが、新自由主義のグローバリストはともかく安倍が左翼というのは少し違和感がある。安倍の常套句「美しい日本」や「日本を取り戻す」、靖国参拝や偏執的改憲志向、アメリカ隷従、反共といった言動を見れば、権力主義的親米右翼という方がしっくりくる。あるいは、何の主義主張もあるわけではなく、権力維持のためにまわりの取り巻きや支持母体の提言を思いつきでつまみ食いしているだけの裸の王様と言った方が良いかも知れない。

各章の構成は、冒頭のコラムで代表的な保守思想家を紹介し、国会や講演会などでの安倍の様々な言説を取り上げて、安倍が保守の対極に位置する人物であることを示している。安倍の言説に対する著者の批判はすべて適切でうなづける。

本書を読んでよかったのは、私の「保守」や「保守主義」に対する理解が間違っていたと気付かされたことである。本書によれば「保守」とは大事なものを「保ち守る」ということでその基盤になるものは常識で、常識は伝統により生成される。保守はゆっくり慎重に改善する漸進主義になる。しかし、急激に世の中が変わっていく中、意識的に常識を維持し愛着ある日々の生活を守るために保守主義が発生する。保守主義の本質は「人間理性に懐疑的であること」である。抽象的なものを警戒し、現実に立脚する。立憲主義は保守思想の根幹である。

ケイト・ラワース著「ドーナツ経済学が世界を救う」を読んだ。本書は、現在主流派の経済学が50年以上前に書かれた教科書(典拠学説は200年前のもの)に従っている古色蒼然としたものであり、21世紀の問題を解決することはできないと主張し、これからの経済学には何が求められるかを広い視野に立って描き出したものである。

人類の長期的な目標を実現できる経済思考を模索し、それらの目標を図で表そうとしたらドーナツのような図ができあがった。同心円状の二本の大小の輪が基本の要素になる。小さい輪―社会的な土台を示す―の内側には飢餓や文盲など、人類の窮乏の問題が横たわっている。大きい輪―環境的な上限を示す―の外側には、気候変動や生物多様性の喪失など、危険な地球環境の悪化がある。それらの二本の輪に挟まれたところがドーナツ本体になり、地球の限りある資源ですべての人のニーズが満たされる範囲を示す。このドーナツの中に入るための経済学の考え方を明らかにする。

21世紀の経済学者の七つの思考法
第一は「目標を変える」。果てしないGDP(国内総生産)の成長を目指すのではなく、地球の限りある資源の範囲内で、すべての人が人間的な生活を営めるようにすることを目標とする。つまりドーナツの中に入ること。

第二は「全体を見る」。視野の狭い極めて限定的なフロー循環図のみで経済の全体を説明するのではなく、経済は社会や自然の中にあり、太陽からエネルギーを得ているものとする新しい経済の全体像を描く必要がある。

第三は「人間性を育む」。20世紀の経済学の中心的肖像である合理的経済人ではなく、社会的適応人としてドーナツの中にすべての人を入れるという目標の実現性を大幅に高められるようなしかたで人間性を育むこと。

第四は「システムに精通する」。19世紀の過った力学的平衡の喩えに基づく市場の供給曲線と需要曲線が交差した図ではなく、シンプルな一組のフィードバックループで表せるシステム思考の図=動的システムを経済学の中心に据えることで、経済を絶えず変わり続ける複雑なシステムとして管理するべきである。

第五は「分配を設計する」。20世紀にはクズネッツ曲線に基づき、不平等は拡大、縮小を経て最終的に成長によって解消されるとされていた。現在では、不平等は経済的必然ではなく、設計の失敗によることがわかっている。代表的な分配法の一つであるフローのネットワークでは、単なる所得ではなくあらゆる富の再分配と金を生み出す力の再分配の方法が模索される。

第六は「環境再生を創造する」。これまでは環境汚染もクズネッツ曲線に基づく不平等と同様に、悪化、低減を経て最終的には成長によって一掃されると言われてきたが、現実には環境破壊はあくまで破壊的な産業設計の結果だ。21世紀には、循環型―直線型ではなく―の経済を創造し、地球の生命循環のプロセスに人類を完全に復帰させられるよう、環境再生的な設計を生み出せる経済思考が求められる。

第七は「成長にこだわらない」。主流派の経済学では終わりのない経済成長が不可欠のこととみなされている。この自然の摂理に逆らおうとする試みは、高所得・低成長の国々で根本的な見直しを迫られている。現在の経済は、繁栄してもしなくても成長を必要としている。わたしたちに必要なのは、成長してもしなくても繁栄をもたらす経済だ。そのような発想の転換ができれば成長への妄信が消え、どうやって成長依存の経済を変えられるかを探れるようになる。

21世紀の課題は、人類がドーナツの安全で公正な範囲の中でバランスのとれた繁栄を遂げられるよう、「豊かな生命の網のなかでの人類の繁栄」を推進できる経済を築くことだ。そのためにはあらゆる経済が社会の中に、生命の世界の中にあることに気づくと同時に、家計、コモンズ、市場、国家の四者すべてが、多くのニーズや要望を満たす効果的な手段になり得ることに気づく必要がある。そうすれば経済の複雑なダイナミクスを管理し、現在の分断的で非環境再生的な経済を、分配的で環境再生的な経済に設計し直す道が開けてくる。


本書は上記の七つの思考法に基づく実施例を提示しながら、さらに詳細な説明をしている。経済学者だけでなく政治家や企業経営者、自治会運営者、一般市民のすべての人々が読み・考え・実行するべきだと思える。
これまでは経済学は予測能力がなくて科学とは言えない無価値な学問だと思っていたが、本書を読んでこの思考法が社会で実現されるのなら、まんざらでもないと考え直した。

 マッケンジー・ファンク著「地球を売り物にする人たち」を読んだ。気候変動が確信的になっても人類は早急にそれを止めることなく何をしているのか―本書がそれを探る過程で人間の本性をあぶりだした結果、自己保存と目先の利益を追い求める「共有地の悲劇」と「現在志向バイアス」の物語となった。

気候変動ほど大規模で普遍的な出来事が、悪いことばかりであるはずがない。そこには途方もないビジネスチャンスがある。本書は気候変動の「カネ」にまつわる側面をまとまったかたちで紹介している。
気候変動関連ファンド(クリーンテクやグリーンテクよりも、温暖化が進んだ時に業績が伸びそうな企業を重視)、氷が解けて開ける北極海の航路とその領有権、氷が解けることでアクセス可能になる地下資源(北極海やグリーンランドなどの石油、天然ガス、鉱物資源など)、人工雪製造、淡水化プラント、火災やハリケーンなどの保険、営利の民間消防組織(保険会社と提携し、料金を支払う人だけを守る)、水供給ビジネスや水利権取引、農地獲得(豊かな国や企業が、21世紀最初の10年間で日本の面積の2倍以上を確保)、難民の流入防止や拘束、護岸壁や防潮堤、浮遊式の建物や都市の建設、バイテク(病原体を運ぶ蚊の駆除や遺伝子組み換え農作物など)、気候工学の応用(人工降雨、太陽光を遮る成層圏シールドなど)・・・・。

これらのビジネスの問題点はそこに「不公平」があることだ。つまり儲けを手にしたり恩恵を受けたりするのは、もともと豊かで、そもそも温暖化に大きく寄与している人々であり、そのしわ寄せを受けるのは、もともと貧しく、そもそも温暖化にはたいして寄与していない人々であるという、いわば「加害者」と「被害者」の構図が存在することである。

日本は、二酸化炭素排出量や食糧低自給率による国外農地への負荷と食糧輸入時の輸送用燃料消費、ミネラルウォータの輸入、食糧輸入による外国での間接的な水消費、輸出品のための水消費などからみて、加害者の側にあることは間違いない。一方、海面上昇による土壌の塩性化、水没、洪水、高潮、津波、温暖化による農業生産への影響、デング熱やマラリアといった病気の発生、異常気象現象の多発などから被害者となる展開もある。


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