中村文則著
「R帝国」
を読んだ。本書は近未来世界を描いたディストピア小説である。そこでは資源や利権を求めてテロと一体化した戦争が常態となっている世界である。日本を彷彿とさせるR帝国は、1党独裁の国家党(略して”党”)が社会を牛耳っている。民主主義国家の体裁を整えるために、党の1%の議席をいくつかの野党に振り分けて、議会を成立させているが、第一野党の党首は実は”党”から密かに派遣された工作員である。
R帝国にはR教という宗教組織があり、党は統治にこれを巧妙に利用している。また、”L”と呼ばれる反政府の地下組織があり”抵抗”を続けているが、第一野党の党首がスパイとして潜入している。党は一枚岩ではなく2対8の二派にわかれて権力闘争しており、主流派は、非主流派の行政区である最北端の島嶼部をY宗国のテロ集団に攻撃させるように仕向け、当地区に住む国民もろともテロ集団をせん滅するとともに、Y宗国に対して同盟国と共に宣戦布告する。
メディアは党の情報操作の支配下にあり御用メディアと化している。ネットも党を賛美するボランティアが、反党や反政府的な投稿を監視し、徹底的に攻撃して炎上させている。一般国民は現状肯定に凝り固まり、党の情報操作に踊らされて真実を見ようとせず、半径5メートルの幸福に埋没している。一方、自由な民主主義社会を描いた小説が密かに読まれている。
これは日本の近未来を暗示していると言えよう。国民が半径5メートルの幸福に埋没し、政府の情報操作に踊らされて真実を見ようとせず、何も考えず何も行動しなければ、安倍自民党の一党独裁がR帝国の国家党独裁と同じことになる。