fc2ブログ
 内田樹編「人口減少社会の未来学」を読んだ。本書は人口減少社会の未来についての11人の識者の考察を収録したものである。冒頭の序論で内田は、先の戦争指導層で見られたように、日本社会には最悪の事態に備えて「リスクヘッジ」をしておくという習慣がなく、そういう予測をすること自体を「敗北主義」として忌避すると言う事実を勘定に入れておかないと、適切なリスク管理はできない、人口減少社会への対処は「後退戦」であり、経済的苦境を自明の与件として受け入れ、そのうえで「低成長」「ゼロ成長」の経済システムをどうやって構築するかについての非情緒的で計量的な知性が必要と述べている。

文筆家の平川は、少子化の直接原因は晩婚化であり、政治が介入することは不可能と断じる。晩婚化の理由は、家族形態が権威主義的な大家族から、英米型の核家族へ移行したこと、および市場化の進展と密接な相関を持っていると主張している。市場化とは無縁化でもあり、人々は家族を含めた有縁の共同体から自ら進んで逃走し、その結果として、権威主義的な直系家族も解体されていった。また、消費社会の進展によって、結婚を損得で考えるというモラルが定着していった。

少子化対策として可能な政策はひとつしかない。それは結婚していなくとも子供が産める環境を作り出すこと以外にはない。婚外子率はフランス、スウェーデンが5割超、ドイツが35%に対し、日本は2.3%、韓国は1.9%である。日本や韓国の少子化対策は、結婚の奨励や子育て支援が中心だが、フランスやスウェーデンでは方向が逆で、法律婚で生まれた子供でなくとも、同等の法的保護や社会的信用が与えられるようにしている。

 須田桃子著「合成生物学の衝撃」を読んだ。本書のPRで人口生命体が作られたとあったので、ついにそこまで来たのかと期待したが、実際は生命の存続に必要な最小限のゲノム(ミニマム・セル)を同定し、そのDNAを人工合成して細菌の細胞に注入し、細菌が細胞分裂して増殖することを実証したということで、細胞まで人工合成したわけではなかった。未だ完全な人工生命は実現されていないようだ。DNAの人工合成はかなり前から実現しているが、細胞合成の方が難しいようだ。

本書は、生物学を工学化しコンピューターでDNAを設計して生物をつくる「合成生物学」と呼ばれる学問の現状を、米国の大学、研究所、関連機関に取材しまとめたものである。最新のゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」やこれを用いた遺伝子ドライブ(改変遺伝子の世代拡散)、生物兵器の開発と防衛、ヒトゲノム合成計画などについて記述している。現段階では「合成生物学」は大げさで、「ゲノム合成学」という方が実際に近い。ゲノムは遺伝コードに過ぎず、増殖に必要な機能を有する細胞が合成できなければ人工生命とは言えない。

 中村文則著「R帝国」を読んだ。本書は近未来世界を描いたディストピア小説である。そこでは資源や利権を求めてテロと一体化した戦争が常態となっている世界である。日本を彷彿とさせるR帝国は、1党独裁の国家党(略して”党”)が社会を牛耳っている。民主主義国家の体裁を整えるために、党の1%の議席をいくつかの野党に振り分けて、議会を成立させているが、第一野党の党首は実は”党”から密かに派遣された工作員である。

R帝国にはR教という宗教組織があり、党は統治にこれを巧妙に利用している。また、”L”と呼ばれる反政府の地下組織があり”抵抗”を続けているが、第一野党の党首がスパイとして潜入している。党は一枚岩ではなく2対8の二派にわかれて権力闘争しており、主流派は、非主流派の行政区である最北端の島嶼部をY宗国のテロ集団に攻撃させるように仕向け、当地区に住む国民もろともテロ集団をせん滅するとともに、Y宗国に対して同盟国と共に宣戦布告する。

メディアは党の情報操作の支配下にあり御用メディアと化している。ネットも党を賛美するボランティアが、反党や反政府的な投稿を監視し、徹底的に攻撃して炎上させている。一般国民は現状肯定に凝り固まり、党の情報操作に踊らされて真実を見ようとせず、半径5メートルの幸福に埋没している。一方、自由な民主主義社会を描いた小説が密かに読まれている。


これは日本の近未来を暗示していると言えよう。国民が半径5メートルの幸福に埋没し、政府の情報操作に踊らされて真実を見ようとせず、何も考えず何も行動しなければ、安倍自民党の一党独裁がR帝国の国家党独裁と同じことになる。


| HOME |


Design by mi104c.
Copyright © 2018 個人出版コミュニティ, All rights reserved.