グレアム・アリソン著
「米中戦争前夜」
を読んだ。本書は、新興国と覇権国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオを述べたものである。著者はこの歴史法則を、古代ギリシャのアテネとスパルタのペロポネソス戦争の原因を分析したアテネの歴史家トゥキディデスにちなんで、「トゥキディデスの罠」と名付ける。台頭する新興国の野心と脅かされた覇権国の不安が、均衡と安定を崩し予期せぬことから大戦争を引き起こす。
著者らの研究チームは、過去500年間の覇権争奪をめぐる16件の大きな衝突の原因を究明し、戦争に至った12件までが「トゥキディデスの罠」で説明できると結論した。本書はこれに基づき、米中の平和のための戦略的指針を示した。
米中戦争に至る道程として5つのシナリオを示している。1.海上での偶発的な衝突、2.台湾の独立、3.第三者の挑発、4.北朝鮮の崩壊、5.経済戦争から軍事戦争へ。これらのシナリオは、中国の破壊的な台頭によるストレスのために、本来なら取るに足らない偶発的な出来事が、大戦争に展開するプロセスを描いている。
現在の流れでは、今後数十年の間に悲惨な米中戦争が起こる確率は、許容できるレベルを大幅に超えている。
過去500年間で「トゥキディデスの罠」から逃れた4件から、戦争を回避するヒントが得られる。1.高い権威を持つ存在は対立解決の助けになる、2.国家より大きな機構に組み込む、3.賢い国家指導者を擁する、4.重要なのはタイミングだ、5.文化的な共通点を見出す、6.この世に新しいことなどない。核兵器以外は、7.相互確証破壊(MAD)により総力戦は狂気の沙汰に、8.核保有国間の熱い戦争はもはや正当化できない、9.それでも核超大国は勝てない戦争をする覚悟が必要、10.経済的な相互依存、11.同盟は命取りになりかねない、12.国内情勢は決定的に重要である
今後のアメリカの指導者が、キューバ危機を回避したケネディと同じように賢い選択をするためには、猛烈に考え、猛烈に努力する必要がある。そのためにはまず、四つの中核的概念を理解すべきである。1.重大な利益を明確にする、2.中国の行動の意図を理解する、3.戦略を練る、4.国内の課題を中心に据える