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 ジョン・ダワー著「敗北を抱きしめて」を読んだ。上巻では、日本の敗戦直後の虚脱状態からパンパンや闇市の闇商人に代表される無秩序なサブカルチャー「カストリ文化」への移行、GHQによる天皇制民主主義に基づく新植民地主義的革命を経て、天皇に変えてマッカーサーへの敬意と服従を示すようになったが、やがて朝鮮戦争が始まるとレッドパージ(赤狩り)とデパージ(軍国主義者の復帰)が並行して活発化する「逆コース」に入っていく過程が詳述されている。

下巻では、マッカーサーが日本統治に有効かつ必要不可欠と考える天皇制民主主義を定着させていく過程を詳述している。マッカーサーの政策に大きく影響したのは、軍事秘書官で心理戦の責任者のボナー・F・フェラーズである。天皇の退位や処刑は日本人全員の大きく激しい反応を呼び起こすので得策ではなく、天皇と軍部の間にくさびを打ち込み、軍国主義者が天皇と国民をだましたとして一掃すれば、天皇を平和と善に役立つ存在として、日本統治を円滑に進めることができるという考えである。天皇と日本政府もこの政策に同調し、天皇制さえ保持できるのであれば、マッカーサーの要求をすべて進んで受け入れることにした。

紆余曲折を経てGHQ草案に基づく新憲法が制定された。戦力不保持を謳う九条は画期的であったが、朝鮮戦争の勃発を契機に、アメリカの要求によりなし崩し的に再武装が開始され、警察予備隊から保安隊へ、そして現在の自衛隊に至っている。

東京A級裁判は、「平和に対する罪」という事後法を導入し、国際司法の極致と称賛される一方、政治裁判で法ではないとの批判もある。東京A級裁判が終わるころ、連合国の連合は冷戦によって崩れ、内戦や植民地戦争に明け暮れていた。そしてアメリカの占領政策は舵を切り、初期の「非軍事化と民主化」の理想から逸れていった。
巣鴨拘置所のA級戦犯容疑者の数は、告訴棄却によって50名から19名に次第に減っていった。その中には右翼の大立者、児玉誉士夫と笹川良一のほかに、明敏かつ悪辣な官僚で満州国で経済界の帝王として君臨し、何千何万という中国人を奴隷にように強制労働させ、のちに首相になった岸信介がいた。

「憲法九条」や「日米安保条約」が残したもの、それは軍事占領が終結し、日本が名目的独立を獲得したときの従属的独立の遺産である。憲法九条の精神に忠誠を誓えば国際的嘲笑を招き、他方、憲法九条を放棄すれば、日本は過去の敗北を取り消そうとしているという激しい抗議を招く。

日本の戦後システムのうち、当然崩壊すべくして崩壊しつつある部分とともに、非軍事化と民主主義化という目標も今や捨て去られようとしている。敗北の教訓と遺産は多く、また多様である。そしてそれらの終焉はまだ視界に入っていない。

 屈辱的な安保条約と米軍地位協定による米軍基地および米軍活動の治外法権の現状や、日本政府のアメリカ隷従政策を見れば、現在は70年前のGHQによる占領体制と何も変わっていないと言える。権威に弱く強者にすり寄る日本人の特性は、お上に無批判に隷従する江戸時代の特性を受け継いでいるのかもしれない。


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