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 前泊博盛著「日米地位協定入門」 を読んだ。本書は、日米両国の「属国・宗主国関係」の法的取り決めの中心である「日米地位協定」の問題点を、17問のQ&A形式で解説するとともに、外務省機密文書「日米地位協定の考え方」を読み解き、日本政府がすべての条項について、いかにしても米軍に有利になるよう拡大解釈するために腐心しているかを明らかにしている。地位協定も安保条約も沖縄に限らず日本全国に適用される法律である。

「日米地位協定」とは、アメリカが占領期と同じように日本に軍隊を配備し続けるための取り決めである。米軍と米軍基地は、日本国内にありながら一種の「治外法権」を与えられている。「基地の排他的管理権」により、基地内ではすべて好き勝手にできる権利があり、地上、上空を問わず基地間移動もほとんど制約はない。また、「出入国管理法の適用除外」により、出入国自由の特権がある。これらにより、米軍関係者は一切の出入国審査もなく、直接基地から出入国しているため、日本政府は国内にどんなアメリカ人が何人いるか把握していない。

首都圏上空の「横田ラプコン」や沖縄上空の「嘉手納ラプコン」など、強大な米軍の管理空域があり、日本の航空機は自由に航行できない。一方、米軍機は特例法により日本の航空法の適用除外となっており、高度も安全も何も守らず勝手気ままに航行できる。
米軍機の墜落事故では日本側の捜査権はなく、米軍がすべての現場周辺を封鎖制圧し機体を回収する。人身事故が遭っても米軍人が裁かれることはなく、賠償は日本政府が行う。

日米密約「著しく重要な事件以外裁判権は行使しない」及び刑特法により、米軍や米兵の犯罪はほとんど起訴されない。米兵犯罪や爆音被害の補償金も米国側が踏み倒し、ほとんど日本側が国民の税金から出している。爆音訴訟では、「第三者である米軍の飛行を規制する権限は日本政府にはない」という最高裁の「第三者行為論」により、米軍機の飛行差し止めは行われない。地位協定には環境保護規定がなく、いくら有害物質を垂れ流しても罰せられない。地位協定で決めているのに米軍が守らないケースも無数にある。

地位協定関係の問題すべてを協議する機関「日米合同委員会」での「合意」は原則非公開で、設立の経緯から考えても、常に日本側が譲歩してきたと考えられる。合同委員会は日米が対等な外交交渉を行っているふりをするためにつくられたブラックボックスである。

日本の地位協定は、米軍が駐留する各国の地位協定と比べても、明らかに不平等であると各方面から指摘されている。例えば同じ敗戦国のドイツでは、米軍基地周辺といえども国内では、米軍機に飛行禁止区域や低空飛行禁止を定めるドイツ国内法(航空法)が適用される。
イタリアでは、駐留米軍は軍事訓練や練習を行うときは必ずイタリア政府(軍)の許可を受けなければならない。すべての米軍基地はイタリア軍の司令官の下に置かれ、米軍は重要な行動や事件・事故を通告する取り決めになっている。
韓国では「環境条項」が創設されていて、基地内での汚染について各自治体が基地に立ち入って調査できる「共同調査権」が確立されている。また、返還された米軍基地内での汚染が見つかれば、米軍が浄化義務を負う。日本の米軍基地では日本が浄化する。
イラクがアメリカに占領されていた時に結んだ地位協定では、米軍の自国からの出撃拒否及び上空通過の不許可という立派な協定になっている。

「戦後日本」の最も重要な基礎であるべきサンフランシスコ講和条約に正文(日本語)がなかったうえに、講和条約に入れられないほどひどい条文は、その程度に応じて安保条約へ、さらには日米行政協定(現地位協定と同じ)に押し込まれ、条文にできない程の売国的約束は密約として機密文書化するなど、何重もの隠蔽が行われてきた。吉田首相の秘密外交を起源として、歴代政権による極端なまでの対米従属路線が戦後70年の現在までも続いている。

戦後70年、歴代の自民党保守政権は、主権国家なら到底容認できない屈辱的な不平等条約である安保条約・地位協定を少しでも対等なものに近づける努力を一切やっていない。同じ敗戦国のドイツやイタリアができたことがどうしてできないのか?いや、やろうとしないのか?もちろん自己保身のため以外の何物でもないのだろう。安倍も尻尾を振るだけのトランプの忠犬に安住せず、愛国教育や改憲を唱える前に、安保条約・地位協定を対等なものに改正する努力をしろと言いたい。改憲よりも安保条約破棄と米軍撤退が先だ。その上で専守防衛の自衛隊を憲法に明記するのなら容認できる。


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