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 カルロ・ロヴェッリ著「すごい物理学講義」を読んだ。物理学の懸案事項である一般相対性理論と量子力学の統合理論の一つであるループ量子重力理論の解説書、との触れ込みで手に取ってみたが期待外れだった。半分くらいが一般相対性理論と量子力学の解説、4分の1がループ量子重力理論が帰結する宇宙像で、ループ量子重力理論そのものについては、表面をさらっと撫でた程度で「すごい」とは感じられなかった。これなら、15年前のリー・スモーリン著「量子宇宙への三つの道」からあまり進展していないと思う。

相対性理論に量子論を組み込むと特異点で解が無限大になる問題と、場の量子論で重力を組み込むと解が無限大になる問題の両方を解決するために、ループ量子重力理論は、時空が連続体ではなく、無限小の点ではない離散的な時空量子のスピンネットワークで形成されているとしている。

量子重力理論によれば、世界はたった一つの実体「共変的量子場」からできている。粒子も、エネルギーも、空間も時間も、たった一種類の実体が表出した結果に過ぎない。連続的な空間と時間とは、重力の量子の力学を大きなスケールでとらえた時のおおよそのイメージであり、重力の量子とは、空間や時間が互いに影響を与え合うときの手段である。

 山本一成著「人工知能はどのようにして『名人』を超えたのか」を読んだ。本書は、最強の将棋AI「ポナンザ」開発者である著者が、開発を通じて体得した機械学習の本質を解説したものである。巻末付録として、グーグルが開発した最強の囲碁AI「アルファ碁」とイ・セドル九段の対戦5局をテーマに、著者と囲碁技師とインタビュアーによる座談がある。

内容は機械学習、深層学習、強化学習の概要を、将棋AI開発経緯を背景に解説したもので、この分野にある程度知識がある人にとっては物足りないと思うが、ゲームAIの概要を知るには好適である。
AI開発者の例にもれず、著者もカーツワイルの「シンギュラリティ」を文句なしに信じているようだ。各限定分野に特化した膨大な数のAIを連結すれば、人間の脳を超える汎用AIが実現できるのではないかとのイメージを提示している。

真の汎用AIが実現したら、政治経済もAIに任せた方がよいかもしれない。権力と利得と自己保身しか目がない人間の政治家がほとんどの現状を見れば、正論だと考える。

 松田雄馬著「人工知能の哲学」を読んだ。第三次人工知能ブームのもと、人工知能に基づく社会基盤づくりが加速しているが、本書は、「知能とは何なのか」、「私たちはどこに向かおうとしているのか」との疑問を出発点とし、「生命としての知能」を探求することを目的に、人工知能と生命の差異を整理し、「知能」をとらえ直したうえで、人工知能研究のあるべき方向を探求している。

錯視は、私たちが「騙される」つまり「主観的に世界を作り出す」ことを示している。人間(生物)にとって、「世界」は時々刻々と変化する変幻自在の「無限定空間」であり、その中で生きていかなければならない。「知能」とは、身体を通しての環境との相互作用によって、「環境との調和的な関係」を作り出し、「世界」を知り、「自己」を作り出していくことによって、不確実な世界を生きていくことを可能にするものである。

哲学者ジョン・サールは、「強い人工知能」「弱い人工知能」という二つの考え方を示した。前者は知能を持つ機械(精神を宿す)、後者は人間の知能の代わりの一部を行う機械を指す。「強い人工知能」は未だ実現されておらず、開発あるいは実現されているのは「弱い人工知能」である。
最近議論されている人工知能における「シンギュラリティ」は、あくまで情報テクノロジーの進化という観点において、「コンピューターが人間の知性を凌駕する」可能性を議論したもので、そこには「生命」としての「知能」に関する考察が、十分に反映されていない。

「人間にできて機械にできないこと」の本質は、「自ら意味を作り出す」ということである。「意味」は、人間が身体を持ち、自分自身の「物語」を生きることによってはじめて作り出すことができるものであり、自分自身の物語の中に、客体を位置づける(関係性を作り出す)ことである。こうした「物語」や「関係性」を作り出すことができる「人工知能」は未だ作られていないばかりか、ほとんど研究されていない。

要するに著者の主張は、現在進められている情報テクノロジーに基づく「人工知能」開発では、「弱い人工知能」の高度化に過ぎず、いつまでたっても「強い人工知能」を実現することはできないということである。
しかし、生物と同じような機能を持たないと「強い人工知能」が作れないとは限らないのではないか。実空間での相互作用から自己学習するような、基本的アルゴリズムだけの人工知能をロボットに組み込み、実空間での経験を重ねることで知能を習得していくようにすればよいのではないか。ロボット学校で基本的な教育をする必要があるかもしれないが。


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