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 広井良典著「ポスト資本主義」を読んだ。資本主義システムは不断の「拡大・成長」を不可避の前提とするが、地球資源の有限性、経済格差の拡大、生産過剰による貧困などの課題を解決し、人間の幸せや精神的充足をもたらす社会を構築するには、資本主義とは異質な原理や価値を内包する「ポスト資本主義」とも呼ぶべき社会像の構想が求められている。

人類の歴史は、人口や経済規模の「拡大・成長」時代と「定常化」の時代の交代と把握でき、三回のサイクルがあった。第一のサイクルは、20万年前以降の狩猟採集段階、第二のサイクルは、約一万年前の農耕開始以降の拡大・成長期とその成熟、第三のサイクルは、産業革命以降ここ200から300年前前後の拡大・成長期である。私たちは今「第三の定常化」の時代を迎えるか否かの分水嶺に立っている。

超(スーパー)資本主義ともいうべき「第四の拡大・成長」の時代をもたらす技術的突破の可能性としては、「人工光合成」、「宇宙開発ないし地球脱出」、「ポストヒューマン」の三つが考えられる。しかしこの志向方向は、現在の世界の矛盾は放置した上で外的な拡大や技術に訴えるもので、実現したとしても同様の矛盾が生じ続けることになる。
私たちが今後実現していくべき社会は、現在のアメリカのような甚大な格差や「力」への依存とともに、限りない資源消費と拡大・成長を追求し続けるような社会ではなく、ヨーロッパの一部で実現されつつあるような、「緑の福祉国家」ないし「持続可能な福祉社会」とも呼ぶべき、個人の生活保障と環境保全が経済とも両立しながら実現されていくような社会である。

生産性が最高度に上がった社会では、少人数の労働で多くの生産が上げられ、人々の需要を満たすことができるので、その結果おのずと多数の人が失業するというパラドックスに陥る。失業は貧困につながり、ある意味で「過剰による貧困」とも呼ぶべき状況になる。従って対応策の重要な柱として(1)過剰の抑制(富の総量に関して)、(2)再分配の強化・再編(富の分配に関して)が挙げられる。
(1)の最もシンプルなものとしては賃労働時間の短縮である。日本にそくした提案として「国民の祝日」の倍増がある。(2)としては「機会の平等」の保障強化、「ストックの社会保障」あるいは資産の再分配(土地・住宅、金融資産等)、コミュニティというセーフティネットの再活性化を柱とする。

 ジム・アル=カリーリ&ジョンジョー・マクファデン著「量子力学で生命の謎を解く」を読んだ。本書は、「量子生物学」の最新の成果と可能性を、豊富な実例を通して明らかにしたもの。量子生物学は、これまでの生物学では解けなかった様々な謎を解明してきている。

ヨーロッパコマドリは、量子もつれ状態にある遊離基のペアを使って飛ぶ方向を決め、毎年3000キロの渡りを正確に行う。光受容体クリプトクロムによって、鳥の目が量子コンパスとして作用し、鳥の磁気受容を成立させる。オオカバマダラチョウも同様の仕組みで渡りを行う。

ラクトースを食べられない細菌が、ラクトースのみの環境に置かれて何日か経ってから急に、ラクトースを食べるコロニーが大量に現れる「適応的突然変異」は、標準的な進化論では説明できない。遺伝子が量子情報系だとすれば、ラクトースの存在が量子測定になる。細菌のDNAに含まれる陽子は、変異を引き起こす位置にトンネルし、またもとの位置にトンネルして戻る。量子測定により陽子の位置はどちらかに収束するが、変異を起こす位置だったら遺伝子が訂正され、ラクトースを食べ成長して増殖する。

量子振動説によれば、嗅覚受容体の生体分子は、電子の量子トンネル効果を使って化学結合の振動を感知している。受容体分子の「ドナー部位」に電子が1個あり、捕まえた匂い分子が適正な振動数の結合を持っていると、電子はトンネル効果によって同じ分子内の「アクセプター部位」へ飛び移る。この電子がつながれていたGタンパク質の魚雷を発射させ、それによって嗅覚神経細胞が発火して信号が脳へ伝えられる。

生命は量子の世界と古典的な世界との縁を航海している。細胞は細長いキールを量子の層までまっすぐに突き刺した船のようなもので、そのためにトンネル効果や量子もつれなどの現象を利用することで生き続けることができる。量子の世界とのこの結びつきを積極的に維持するには、熱力学の嵐(分子ノイズ)を利用して、量子コヒーレンスを壊すのではなく維持しなければならない。


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