ヴォルフガング・シュトレーク著
「時間かせぎの資本主義」
を読んだ。本書は、2008年のリーマンショックから今日まで続く現代資本主義の現状を、三つの危機の相関的危機ととして記述している。
1.銀行危機
金融工学を駆使した住宅ローンの証券化や金融派生商品の開発を通じて、官民に過剰な信用を供与してきた銀行は、リーマンショック以後巨額の不良債権を抱えることになった。
2.国家債務危機
信用危機の連鎖的拡大を防ぐために、国は不良債権の引き受けや銀行への資本注入を余儀なくされた。ただでさえも過剰債務を抱えていた国家の債務危機が、これによってさらに悪化した。
3.成長ないしマクロ経済危機
財政再建のための緊縮は需要を縮小し、マクロ経済を悪化させる。
この三つの危機は互いに密接に関係し合っており、一つの危機を根本的に解決しようとすると他の危機を悪化させるというジレンマがある。特定のボトルネックによる機能不全ではなく、システムそのものに内在する矛盾の顕在化である。こうした危機を生み出した根本原因は、1970年代の資本主義の形態変化にある。戦後資本主義の成長停滞と、その克服のための新自由主義的転換は、危機を「解決」したのではなく、「先送り」してきたにすぎない。その手段は、「貨幣」で「時間を買う」というもの。
時間かせぎの第一弾は、70年代の紙幣増刷による「インフレによる時間かせぎ」、つまり実質成長を名目成長で肩代わりすることによる先送りである。第二弾は、将来の金融資源である国債発行による先送りである。第三弾は、国家債務の家計債務への付け替えである。つまり、個人の債務上限を吊り上げ、労働者の未来の購買力を担保に金融機関から金を引き出し、そのリスクを個人に取らせることで危機を先延ばしした。第四弾は、各国の中央銀行による時間かせぎである。つまり、中央銀行はゼロ金利で市場に資金を提供しているだけでなく、積極的に危機国の国債を購入し、株を購入し、国家と二人三脚で危機の表面化を防いでいる。
この時間かせぎの結果、今日の債務国家は、第一の国民である選挙民の声だけでなく、第二の国民となった金融市場の要求に耳を傾けざるを得ない。行政をスリム化し、大胆な年金カットと社会保障削減を断行できる政治家がよきリーダーと呼ばれる。この四段階の時間かせぎは、民主主義が資本主義の支配に屈していくステップでもある。
次なる社会構想を練ることなく、相変わらず目先の浮利を追いかけるために時間を浪費すれば、そのつけはふたたび大きな痛みを伴う破綻となって戻ってくる。
本書の指摘は日本社会にも当てはまる。政治家は現実を直視して、より良い次の社会システムを構築していくために、有識者の英知を結集する方法、手順を考え実行する義務がある。国民の生活を考えない自己保身だけの偏狭な政策に固執し、強行する政治家は百害あって一利なしで不要である。