神奈川新聞「時代の正体」取材班編「時代の正体――権力はかくも暴走する」を読んだ。地方紙の記者が、それぞれの思いの発露として掘り起こしてきたネタを収録したもので、五つの章で構成されている。

1.「安全保障」の暴走
 「秘密法」や「集団的自衛権行使」、「戦争法」などの権力者による憲法破壊を止めるために立ち上がった若者たち「SEALDs」の活動、集団的自衛権をめぐり、磯崎首相補佐官とツイッターで論争を挑んだ18歳の少女、憲法学者たちの立憲危機にあがらう街頭演説や論考、軍縮と安全保障の調査・研究を続けるNPO法人の指摘など、安倍政権の暴走に対する危機意識に満ちた言葉や活動が集められている。

2.抑圧の海---米軍基地を問う
 
 横浜・米軍機墜落による民家直撃・炎上事故の裁判における不条理、沖縄国際大でのヘリ墜落事故の米軍処理、辺野古新基地建設に対する反対運動など、米軍基地がもたらす様々な抑圧と住民の苦しみが集められている。

3.ヘイトスピーチの街で
 北朝鮮による拉致や核実験を理由とする朝鮮学校への補助金打ち切りと無償化除外、在日コリアンに対する差別、ヘイトスピーチデモとカウンター、関東大震災直後に横浜で起きた朝鮮人虐殺の実態隠し、嫌韓・嫌中のヘイト本や週刊誌など、差別と排外主義的ナショナリズムのうねりを感得しています。

4.戦後七〇年---扇動と欺瞞の時代に
 国旗掲揚と国歌斉唱の強制について記述した実教出版の日本史教科書に対し、教育委員会が問題視するとともに教科書選定の再考を求めた事件、議論を戦わせず周りと同調する日本人の「ズルズル体質」によって、過去の泥沼戦争だけでなくこれからもそうなるという危惧、ヘイトスピーチやテロ撲滅、沖縄基地問題に見られるマジョリティによる排除の構造、自民党の憲法改正草案の危険性、破局の兆候は国民の権利や自由が制限され、侵害され始めるときにあること、安倍内閣の19閣僚中15人が名を連ねる日本最大の右派組織「日本会議」の改憲へ増す影響力などについて収録している。

5.熱狂なきファシズム
 先の選挙で有権者は、ファシズムを目指す安倍自民党に国家権力を委ねた。現代的なファシズムは、人々の無関心と否認の中、低温やけどのようにじわじわと進行する。 「秘密法」、解釈改憲による「集団的自衛権行使」、「戦争法」しかり。自民党改憲案の全体主義は、政府の意のままに表現の自由を制限する21条改変に顕著である。

消費者民主主義を背景に大多数の国民は、政治に対する「恐るべき無関心」によって現政権を支援し、危機を招いている。
近代化は各主権者を孤立させ、民主主義が機能し難くするので、趣味の同好会や地域の集まり、社会貢献活動など「緩やかな共同体」をつくり、政治的問題について情報や意見を交換する場とする必要がある。

「戦争法案」についての安倍首相の声明は、詭弁と欺瞞に満ちた言葉のまやかしである。安保条約と戦争法の不整合性、戦争参加と同義の「後方支援」、数値用いた詐術、知的不誠実、世論誘導など、枚挙にいとまがない。安倍による国家支配に恐怖心を感じない国民の鈍感さこそ恐怖だ。

日中戦争が始まる歴史的瞬間にも、日常生活が全く変わらなかったことを思えば、現在は戦時と言うべきである。日本のファシズムは、必ずしも外部権力による強制ではなく、内発的に求めていくことに非常に顕著な特徴がある。例えば、神奈川県教委が実教出版の日本史教科書における「日の丸・君が代の公務員への強制」の記述に関し、「強制」ではなく「責務」と発言、教科書を排除した。

戦後70年を目前にした年の暮れの総選挙。議会制民主主義に安住し続けたわれわれの楽観主義、そして戦争責任を追及せず、歴史を忘却してきた帰結として、今の風景がある。日本の思想、文化、メディアを含め、平和憲法、九条というモラルスタンダードの補強作業をしてこなかった。NHK会長らの人事、民放各社への選挙報道への要望など権力の策動に見られるように、今、血相を変えて努力し、工夫しているのは保守勢力の方だ。

選挙後も日常は続く。戦前から、戦争が始まる時も突然風景が変わったのでないように。民主的な全体主義の中で、日常のいたるところで「感性の戦争」は起きている。目を見開き、耳を澄ませ---。

 辺見庸著「もう戦争がはじまっている」を読んだ。2014年6月から約半年間のブログの集成及び2014年から2015年にかけて新聞、雑誌に掲載された約10件の評論をまとめたもの。
ブログは、安倍政権がもたらした危機的状況に対して、ジャーナリズムも国民も鉛のように鈍く、状況を逆転できそうもない不安と怒りを、呪詛に満ちた言葉で繰り返しつぶやいている。
評論は、敗戦の総括を自らの手で行わなかった日本は、70年後の現在、技術的な進化はあっても、政治構造は何も改善されていないことを、様々な視点から論考している。現在は戦間期で歴史的危機にあり、暗転の予兆をつかむために、「五感を研ぎ澄ませ」と言っている。

  中野晃一他2著「いまこそ民主主義の再生を!」を読みました。本書は、自由民主主義が世界的な危機に瀕しているという、現状認識のもとに開催された国際シンポジュームにおける英国の社会学者、米国のジャーナリストおよび日本の政治学者の講演内容を、加筆修正したものです。

1.私物化される政治と国家---新自由主義に乗っ取られた”自由”
 現代の政治は新自由主義によって支配されており、その政治力の主要な基盤は政党支配ではなく、政治の場の非民主的な部分---特に大企業の富によって支配されている部分---に依存する。新自由主義の本当の意図は、市場による統治ではなく、企業の力による統治である。市場規制の緩和が企業の政治力を蓄積し、その力の行使が貧富の格差の拡大を招き、それがさらなる政治的影響力の不平等を導いていく。
民主主義は、政党と社会運動が連携することを必要としている。それなしでは、ますます強力になっていく企業の力に対抗することはできない。

2.”独立した報道”は可能か---沈黙を強いられた人びとの”盾”となるために
 独立メディアは、民主主義社会が機能するために必要不可欠な存在である。それは大手資本による既存マスメディアに対抗し、企業的な利潤追求に左右されることのない報道を目指すメディアである。「デモクラシー・ナウ!」はその一つである。
米国で世論が二分していたイラク侵攻時、夜の四大ニュース番組が行ったインタビュー393件のうち、反戦リーダーに対するインタビューはたった三人だった。他の大多数の人々は、企業メディアに沈黙させられているのである。
原爆投下後の広島取材において、フリージャーナリスト・バーチェットの放射能障害をも含む原爆の恐怖に対する直接的な描写に対し、政府の「お抱えジャーナリスト」となったニューヨークタイムズの科学記者ローレンスは、放射能障害を否定し、米国政府の公式見解をおうむ返しに唱えただけで、ピューリッツア賞を受賞した。

3.自由な個人の連帯へ---グローバルな少数派支配に抗して
 新しい保守統治である「新右派連合」への転換は、「反自由主義」すなわち国家主義的な権威主義(専制支配)と、「新自由主義」つまり経済的自由主義と喧伝されてきたもので構成される。
日本の保守主義は、国家の権威に依拠するところが大きい国家保守主義であり、その上に新自由主義を含む新右派連合が植え付けられていった。日本の新右派転換は、英国や米国を手本として始まり、小選挙区制の導入と行政府、特に首相官邸周辺への権力の集中を目指すものであった。小選挙区制は、少数派の票を議席の多数派に変換してしまう選挙制度で、少数派支配を推進する装置である。例えば、絶対得票率が15%程度しかなくても自民党の議席数は75%以上になる。

新右派連合のグローバルな少数支配に対抗して、先ず「自由」概念の再構築が必要である。個人の尊厳や自由を中核的な価値として希求していくような「自由」概念である。多様で異なる個人やグループ相互の主体的な協働や連帯によって、新たな政治のかたちを紡いでいかなければならない。安保関連法案反対運動はその希望を示す。

 本は再販売価格維持制度(再販制度)に基づく定価販売が長年、当たり前とされてきたが、古本チェーン店やネット書店、電子書籍などが登場し、価格は多様化している。発売から一定期間を過ぎた本を値引き販売する「時限再販」に取り組む出版社も増えてきた。、本の値段はどうあるべきか。識者らに聞いた。

■隙間を突いたネット販売
 津田大介さん(ジャーナリスト)
 一般書店からの返品が4割に及ぶ状況を考えれば、「返品されるくらいなら値引きした方がいい」と考える出版社が出てきてもおかしくはない。顧客目線に立ち、再販や委託販売といった長年のルールを変えるための議論を始める時期にきたということだ。

■値引き、再販維持に必要
 山野浩一さん(筑摩書房社長)
定価販売の根拠となる再販制度は、言論や文化の多様性を保持する機能を果たしてきたが、独占禁止法の例外規定だ。公正取引委員会からもっと弾力的な運用を求められており、法の趣旨に沿った値引き販売の実施は再販制度の維持に必要だ。

■定価販売、多様性を担保
 柴野響子さん(上智大准教授)
 定価販売は多品種・少量の本をさばくのに合理的なシステムとして、また出版社の経営を安定させ多様性を担保する仕組みとして機能してきた。ネット書店や中古本専門のチェーン店ができるなど業界の枠組み、読者の意識は変わっている。ドイツは定価販売をしているが、時限再販は一般的だ。時限再販のような自由価格本の流通は、もっと試みられてよい。

■出版社は時限再販の導入を
 植村八潮さん(専修大学教授)
返品は4割近くで、いっこうに減らない。これほど経済効率の悪いことはない。適正な冊数を仕入れ、それを売り切っていく力が書店に求められている。そのための「武器」として、出版社は時限再販や非再販本をもっと導入して、書店による「値引き販売」などを促していくべきだろう。
 長年続いた巨大な仕組みを急激に変えることは難しいが、内部からイノベーションを起こしていかなくては後がない。



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