中野晃一著
「右傾化する日本政治」
を読んだ。本書は戦後からの日本政治の流れの中で、五五年体制下、自民党の中で階級間妥協に基づく「国民政党」を志向する保守政治を担った政治勢力である「旧右派連合」から、新自由主義と国家主義を両翼とする「新右派連合」へ、寄せては返す新右派転換の「波」により右傾化していき、ついには安倍晋三という歴史修正主義者が政権復帰して「反自由の政治」を現出し、その復古主義的な政治信念から日本の軍国主義化が懸念されるようにまでなった経緯を、国際政治経済を視野に入れながら解明したものである。
右傾化へのカウンター・バランスを築き直すためには、自由主義(リベラル)勢力と革新(左派)勢力がそれぞれに再生を果たし、相互連携するしかない。リベラル左派連合の再興のための基礎条件として次の三つを指摘している。
小選挙区制の廃止 小選挙区制は「二大政党制」の美名のもとに、死票の多い政党制の寡占化を進めたもので、「多数派支配」を標榜しながら実際には「少数派支配」である。しかも候補者レベルでの寡占状態から「勝者総取り」で独占(トップ候補だけが当選する小選挙区レベル、議会第一党が単独政権となる政府レベル)を作る制度であり、有権者の投票行動にもとづく政党に対する市場規律が健全に働くことは期待できない。
民主主義の原点に戻り、比例代表制を市民社会の側から求めていくことが不可欠である。
新自由主義との決別 新自由主義は、企業主義や利己的な欲望や情念の追及を正当化するドグマに堕しており、新自由主義改革がもたらした政治経済の寡頭支配は、暴力や貧困、格差など、個人の自由や尊厳を脅かす最大の要因となっている。新自由主義がいつの間にか乗っ取って、グローバル企業の自由の最大化にすり替えてしまった「自由」の概念をリベラル勢力が奪い返し、経済的自由に限らない豊かな個人の自由の意味を再構築していくべきである。対米追従についても、国際協調主義のなかの節度を持った対米協調への回帰が妥当である。
同一性にもとづく団結から他者性を前提とした連帯へ 旧来型の同一性に依拠した団結から、相互の他者性を受け入れてなお連帯を求めあうかたちへと、左派運動の在り方、言い換えれば集合文化の転換を進めていかなければならない。近頃そのようなかたちの運動や活動が散見されるようになった。例えば、脱原発運動や「秘密法」「戦争法」反対、ヘイトへのカウンター、アンチレイシズム、フェミニズム、LGBT、沖縄への連帯などである。また、キリスト教や仏教、新宗教などの反戦平和運動、日本弁護士連合会や「明日の自由を守る若手弁護士の会」の活躍、学者、SEALDs、「全国おばちゃん党」「怒れる女子会」など、政治参加の斬新なかたちもある。