渡辺治 外3著
「〈大国〉への執念 安倍政権と日本の危機」
を読みました。本書は、安倍政権の権力構造とその担い手、およびその国家改革・社会改革の目標とそのための諸施策の全体像を解明し、同時にそれらがどのような矛盾と困難を人々にもたらすのか、彼らの描く「絵」はどのような矛盾を内包しているのかを明らかにしています。歴代の保守政権の中でも特異で危険な安倍政権の全体像を的確にあぶりだしており、安倍の暴走を阻止するためにも繰り返し熟読すべき本です。
5 グローバル競争大国化と教育改革(4)
安倍政権の教育改革三つの狙いのいずれにもかかる大改革が、教育委員会の改変である。もともと自民党政権は、教育委員会による教育行政には不満を持ち、その権限を縮小し、教育長に教育行政の決定権を付与し、教育委員会を単なる諮問機関化することを狙ってきたが、そうした要求の実現に格好の事件が起こったのである。いじめ問題における教育委員会の現状糊塗的な対応に対する市民の不満の増大、橋下徹の大阪府知事時代からの主張、大津市長の教育委員会制度の改革の訴えなどである。
これを受けて、再生実行会議は「教育委員会制度等の在り方について」という提言をまとめ、地方教育行政の責任者は、首長の任命による教育長とし、教育委員会は教育長に教育の方向性を示し、教育長の事務執行をチェックする機関とする、教育長は教育の基本方針や教育内容にかかわる事項の決定に際しては、教育委員会で審議するなどの方針が打ち出された。これを受けて下村文科相は、教育行政を首長任命による教育長に一本化する案を中教審に諮問した。中教審答申を受けて、自民、公明両党の協議により、それを修正した地方教育行政法の改正が14年度通常国会で成立した。
安倍政権の思惑通りの教育行政体制はできなかったが、教育委員会の権限は大幅に縮小された。法改正は、首長の任命による教育長が、教育委員会の長を兼ね教育委員会を代表する、首長と教育委員会により構成される「総合教育会議」を設け教育行政に対する首長の権限を強化するなど、教育委員会の権限を弱体化するものであった。