渡辺治 外3著
「〈大国〉への執念 安倍政権と日本の危機」
を読みました。本書は、安倍政権の権力構造とその担い手、およびその国家改革・社会改革の目標とそのための諸施策の全体像を解明し、同時にそれらがどのような矛盾と困難を人々にもたらすのか、彼らの描く「絵」はどのような矛盾を内包しているのかを明らかにしています。歴代の保守政権の中でも特異で危険な安倍政権の全体像を的確にあぶりだしており、安倍の暴走を阻止するためにも繰り返し熟読すべき本です。
5 グローバル競争大国化と教育改革(1)
安倍政権が教育改革に取り組むべく立ち上げた「教育再生実行会議」(以下再生実行会議)は、これを軍事大国問題と並ぶ、グローバル競争大国化の柱にしたいという安倍の執念に基づいている。
第一に、安倍政権の掲げる新自由主義改革の要である競争力強化にとって、グローバル経済を担う人材の育成は教育、特に大学教育によるところが大きい。特にグローバル企業の競争力を強化するためのイノベーションや戦略市場を開拓する先端科学技術を生み出す人材づくりは、決定的に重要となる。
第二は、新自由主義がもたらす被害、とりわけ社会の貧困や格差の増大、失業、非正規労働の増加による社会の解体、分裂、家族の解体が社会の深刻な破綻をもたらしていることも、教育に大きな課題を突き付けている。直接には、いじめや児童虐待などの問題の深刻化として現れる。この問題解決には、新自由主義改革を停止し、福祉国家型の社会をつくる必要があるが、安倍政権はもちろんその方向をとる気はない。とすれば、家庭や子供たちの荒れを教育内で処理する必要に迫られる。いじめ問題に対する治安的な対処、さらには道徳教育強化などの新保守主義的対処が求められる。新自由主義の弊害を抑え込む新保守主義的教育改革が第二の狙いである。
安倍個人にとっての最も大きな狙いは第三にある。それは日本の大国化を支持する国民の形成である。中国と対峙する日本の大国化を支持するには「愛国心」がなければならず、愛国心は自国の歴史に対する確信がなければならない。近代を侵略と植民地支配の歴史ととらえ、また”再び戦争を繰り返さない”などという意識のもとでは、「強い日本」を支える愛国心は生まれない。安倍の教育にかける思いは、こうした国民意識の改変である。いわゆる「自虐史観」の克服である。
安倍政権にとって、教育こそ軍事大国化と新自由主義改革という二つの課題にまたがる基軸的課題なのである。