渡辺治 外3著「〈大国〉への執念 安倍政権と日本の危機」を読みました。本書は、安倍政権の権力構造とその担い手、およびその国家改革・社会改革の目標とそのための諸施策の全体像を解明し、同時にそれらがどのような矛盾と困難を人々にもたらすのか、彼らの描く「絵」はどのような矛盾を内包しているのかを明らかにしています。歴代の保守政権の中でも特異で危険な安倍政権の全体像を的確にあぶりだしており、安倍の暴走を阻止するためにも繰り返し熟読すべき本です。

3 軍事大国化と解釈改憲、明文改憲戦略(1)
 集権体制を確立した安倍政権が最も意欲を持つのが日米同盟強化・軍事大国化である。安倍は第一次政権での失敗、アメリカの世界戦略の転換をふまえて、解釈改憲を前面に出しているが、同時にアメリカが嫌がる明文改憲もあきらめていない。
安倍政権が解釈改憲方式を選択した理由の第一は、九条改変にねらいを定めた明文改憲は国民の反発を引き起こし極めて困難だという判断からだ。第二のそれ以上に大きな理由は、海外での武力行使を一貫して強く求めていたアメリカの戦略転換により、アメリカが明文改憲ではなく解釈による集団的自衛権行使容認を求めるに至ったことだ。アメリカの新戦略とは、米軍の直接投入を減らし同盟国に委ねる「肩代わり戦略」と対中国二面戦略をとる「アジア・太平洋重視戦略」である。

安倍政権の解釈改憲の第一の柱は、どんな場合にも自衛隊の海外での武力行使を可能にする解釈改憲である。第一の場合は、集団的自衛権行使を容認するよう解釈変更して、自衛隊の海外での武力行使を可能とすることで、アメリカが最も強く望んできたものである。第二の場合は、多国籍軍のイラク進攻のような集団安全保障に基づく武力行使である。第三の場合は、いわゆる「グレーゾーン」事態での自衛隊の出動である。

解釈改憲の第二の柱は、海外での武力行使を裏打ちする自衛隊の外征軍化である。すなわち、2013年「防衛計画の大綱」の策定により、米軍との共同作戦を可能とする外征軍化のための装備拡充、編成再編を謳った。その一つはもっぱら海外侵攻の尖兵、侵略の殴り込み部隊である海兵隊部隊の創設である。もう一つは、「策源地攻撃能力」、つまり敵基地攻撃能力付与を名目とする攻撃用装備の強化である。これには弾道ミサイルや巡航ミサイルの保持が必要になる。

解釈改憲の第三の柱は、集団的自衛権容認に伴う日米共同作戦を遂行するには不可欠な秘密保護法制、武器共同開発の足枷となる武器輸出三原則の廃棄である。秘密保護法制は、特定秘密保護法というかたちで強行し、武器輸出三原則については、兵器の共同開発、共同生産を理由として廃棄した。兵器共同開発や売込みは、原発の輸出と並んで安倍「戦略外交」の目玉となりつつある。

 渡辺治 外3著「〈大国〉への執念 安倍政権と日本の危機」を読みました。本書は、安倍政権の権力構造とその担い手、およびその国家改革・社会改革の目標とそのための諸施策の全体像を解明し、同時にそれらがどのような矛盾と困難を人々にもたらすのか、彼らの描く「絵」はどのような矛盾を内包しているのかを明らかにしています。歴代の保守政権の中でも特異で危険な安倍政権の全体像を的確にあぶりだしており、安倍の暴走を阻止するためにも繰り返し熟読すべき本です。

2 安倍政権を支える集権体制とその担い手(3)
 安倍政権を支える第二グループは、経産官僚出身の今井尚哉(首相補佐官)、菅原育郎(経済産業政策局長)など新・旧経産省官僚群とそれを支える経産省、それと競合しながら政権に食い込もうとする財務省、それに加えて、安倍お好みの浜田宏一、本田悦郎、さらに竹中平蔵ら新自由主義経済学者である。この第二グループが、安倍政権の新自由主義経済政策を形成、実行している。

安倍を取り巻くブレーンの第三グループが、復古的なタカ派イデオローグである。このメンバーの多くは、第一次政権以来安倍の取り巻きとなり、第一次政権では安倍が彼らを重用した結果、「お友達政権」と揶揄された。第二次安倍政権でも内外のメディアに真っ先に注目されるのはこのグループである。その中心は、首相補佐官となった衛藤晟一、総裁特別補佐となった萩生田光一のほか、文科大臣の下村博文、政調会長の高市早苗、沖縄及び北方対策等の特命担当大臣となった山本一太、総務大臣の新藤義孝、国家公安委員長の古屋圭司、消費者及び食品安全、男女共同参画担当大臣の森まさこ、行革担当大臣の稲田明美などのタカ派国会議員集団の面々である。しかも、2014年9月3日に発足した改造内閣にはさらに多くの「お友達」が入閣した。下村が留任したほか高市が総務大臣に、山谷えり子が国家公安委員長に、有村治子が男女共同参画担当大臣に就任し、稲田は自民党の政調会長に回った。新閣僚19人のうち、実に15人が改憲・右翼団体「日本会議」を支援する「日本会議国会議員懇談会」のメンバーという異様な陣容となった。

彼らは、安倍自身も含め右派のグループをつくって、長年歴史の見直し、教科書問題、河野談話見直しなどを求めて運動をし続けた仲間である。右派議員集団が結成した「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」は、歴史教科書における記述、特に「従軍慰安婦」記述を問題にし、その削除を求めることを目的に発足した。これら右翼タカ派の運動目的は国民意識の改作であり、タカ派グループには、議員だけでなく安倍のまわりを取り囲む学者や作家たちも少なくない。外務省内では、極端な対米従属派のゆえに外務省主流にはなれなかった岡崎久彦、作家の百田尚樹をはじめ、渡部昇一、伊藤哲夫、中西輝政、八木秀次などである。

こうしたタカ派グループは、安倍政権の代名詞のようにみなされたが、この第三グループは、意外にも第一、第二グループと異なり、一部の領域を除いて安倍政権の政策決定には影響を与えていない。安倍自身も深く染まっている彼らのイデオロギーと安倍の目指すグローバル競争大国には齟齬があるからである。
国家構想については、第一と第三グループがいずれも日本の大国化を求めているが、第一グループが目指す大国は、あくまでも冷戦終焉後のグローバル経済秩序のもとでの「グローバル競争大国」である。その理念は日本だけの独善的なものではならず「普遍的」な価値に基づいた開放的なものでなければならない。それに対して第三グループの大国観は、グローバル競争国家というより一国的なな面が強く、日米同盟も対等な同盟という色彩が強い。大国を正当化する理念も、国際的考慮より国民意識のみを考えてのものとなり、靖国問題ももっぱら国内問題ととらえられる。中国、韓国観も、過去の植民地支配以来の蔑視感情を露わにする。
新自由主義改革政策に関しては、第二グループが主導する政権のスタンスと疎遠である。特に、地域の産業に壊滅的打撃を与えるTPPに反対するタカ派グループの立場は、TPPを不可欠とする安倍政権の新自由主義政策とは相容れない。

これらタカ派グループが政策的影響力を発揮するのは、日米同盟でも新自由主義改革でもなく、主として二つの領域に限られている。一つは、戦争責任と歴史問題に関する見直し----河野談話の見直し、村山談話の廃棄、靖国参拝である。それに付随して教育改革のなかでも教科書統制にだけは強い影響力を持っている。もう一つは、社会解体に対する反動的な危機感からする新保守的、あるいは治安強化的政策である。

安倍がタカ派に引きずられる最大の原因は、安倍の故郷がこれらタカ派グループにあることのほかに、安倍が目指す大国の国家像にも混乱があることだと思われる。安倍は外務省、新自由主義派官僚の支持を受けて、グローバル競争大国づくりを掲げ、アメリカや財界の支持を獲得してきた。しかし、安倍自身の目指す「大国」像は、一方でその正当化のために「大日本帝国」との連続性を強調せざるを得ない。こうして安倍は、グローバル競争大国派と復古的大国への郷愁の狭間で股裂き状態に陥っているのである。


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