海渡雄一・前田哲男著
「何のための秘密保全法か」
を読んだ。昨年12月6日、国民の敵「自民党・公明党」の強行採決で成立した憲法違反の「秘密法」は、今突然出てきたのではなく、2006年頃の自民党政権から継続されてきた動きの表面化であるということだ。本書は、「秘密法」に至る秘密保護法制の歴史と背景を展望するとともに、その本質と狙いを暴き、危険性を警告したものである。
4 秘密保全法のある社会
「秘密保全法」が示す「近未来」「反世界」の一例として、自衛隊の「情報活動」がすでに地域社会に浸透している実態を見よう。2007年6月、共産党は、自衛隊による違憲・違法な国民監視活動を示す内部文書を入手したとして公表した。「イラク自衛隊派遣に対する国内勢力の反対動向」(2003年11月24日から04年2月29日まで)と題されたこの文書は、陸上自衛隊・東北方面情報保全隊が調査、収集した2種類11部にのぼる膨大なもので、合わせるとA4版166頁にわたる。全国の情報保全隊指揮官に配布されている。情報保全隊は、「防衛大臣直轄部隊」で、陸上幕僚監部を通じ大臣に直属する。方面総監の指揮下にないので広範な情報活動ができ、かつ全国の保全隊と連携できる。
このときの情報保全隊の監視対象は、政党、労働組合、市民団体、宗教団体、新聞・放送など全国289団体にも達する。街頭宣伝、集会、署名・ビラ配布、議会決議、屋内集会、メディアの取材活動などの発言内容が、主催者の実名や写真とともに収集、分類、集計され、文書にまとめられた。
2012年3月、仙台地方裁判所は、提訴した市民107人の判決で、うち5人について保全隊の情報収集は違法として、国に賠償命令を下した。しかし、違法判決はごく一部(原告側控訴)に過ぎず、情報保全隊のほうは陳謝も処罰もなかった。そこに「秘密保全法」の「公共の安全及び秩序の維持」が新たに設定されたら、「憲兵復活」も誇大妄想とは言えない。
戦前・戦中、軍隊は外の世界を「娑婆」や「地方」、市民を「地方人」として見下した。この倒立した軍隊優位思想が、沖縄戦で住民を「スパイ」とみなし、「軍命令による集団自決」に繋がった。軍隊国家を支え、軍事領域を聖域化するため、多くの秘密保護法制や防諜立法が存在し猛威をふるった。国民は潜在的な「第五列」(内通者)とみなされて基本的人権を制限され、批判的言論は弾圧された。自衛隊がイラク派遣に反対する人々を、一括して「国内勢力」と表現し「反自衛隊活動」と表したのも、旧軍的思想の尾てい骨と言える。
戦争のたびに秘密保護の網は広く、細かくなった。日中戦争開始(1937年)以後、「軍機保護法」が全面改正され、さらに「防空法」「国境取締法」「宇品港域軍事取締法」が相次いで制定された。さらに迫り来る対米戦争にそなえ「国防保安法」(1941年1月)が集大成的に準備され、近衛内閣のもと、「翼賛議会」と称された政党解散、一国一党的な議会において成立した。<安倍の「秘密法」成立と酷似しており、「翼賛議会」が安倍の狙うもの>。
「国防保安法」は、従来の枠組みを取り払い、行政各部の機密事項に秘密保護の網をかぶせるもので、曖昧で無限定、すべての国民を対象とした。「国家機密」を侵す者は、死刑又は無期の刑に処するとされた。法の執行は、主に内務省警保局(特高警察)と陸軍の憲兵に委ねられた。すでに「国家総動員法」が制定(1938年)されたのち、労働組合は解散、「産業報国会」と名を変え無力化したが、さらに二つの秘密保護法を得て、「防諜」の名による当局の国民監視と弾圧体制はより厳しいものとなった。「国民精神総動員」という運動と「隣組」制度が、国民をがんじがらめに縛り、世論を統制・誘導した。一方は思想を一元的に染め上げ、もう一方は相互監視と密告を制度化した。
これらは過去の出来事と見過ごしやすいが、「秘密保全法」ができて「公共の安全及び秩序の維持」を拡張していけば、また、「陸上自衛隊情報保全隊」の活動が、「娑婆」や「地方」でも公認されるようになれば、悪夢の時代は直ぐそばの「近未来」でもあるだろう。それは憲法の締め殺しである。明文改憲なき改正、というより憲法停止。<これこそが安倍の真の狙いだ。ナチスヒトラーがワイマール憲法を実質無効化した手法に通じる。特高警察は戦後、現在の公安警察に引き継がれている>。
わたしたちは、「秘密保全法」の本質をそのようにとらえ、実現阻止に立ち向かっていかなければならない。