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 堤未果著「(株)貧困大国アメリカ」を読みました。本書は前二作に続く三部作の完結編で、いま世界で進行しているポスト資本主義の新しい枠組み「コーポラティズム」(政治と企業の癒着主義)により、国民の主権が多国籍企業群によって合法的に奪われる状況を描いています。そして、多国籍化した顔のない「1%」とその他「99%」という二極化が、世界中に拡がっているということです。これはよそ事ではなく、日本の近未来を予言しています。

1 株式会社奴隷農場
 鶏、牛、豚の飼育は、政府の輸出用大規模産業としての農業政策と、独占禁止法解禁や骨抜きの食品安全審査など大幅な規制緩和により、巨大企業が畜産―販売の全工程を独占化した家畜工場を支配するようになり、農家は巨大企業と圧倒的に不利な条件で契約して利益をすべて収奪される農奴のような地位に落とされた。家畜農場では、牛も豚もコンクリート柵の中に体の向きも変えられない状態で詰め込まれる。鶏は薄暗いケージや鶏舎にぎゅうぎゅう詰めに立たされている。牛や豚には抗生物質が、鶏には成長促進剤が投与されている。
大豆、トウモロコシ、アルファルファ、綿花、カノーラ、テンサイなどの農作物は、遺伝子組み換え(GM)作物で、長期に渡る環境や人体への影響は検証されていない。

2 巨大な食品ピラミッド
 レーガン政権下の独占禁止法規制緩和がもたらした急速な垂直統合により、生産工程の異なる企業による提携・合併・買収などによって競合者がいなくなり、市場が統合されていった。その結果、大手の食料品店が、地域の小売業者や郊外の会員制大型ディスカウントショップなどを次々に買収、傘下に収めていった。全米の食品販売の5割以上を、ウォルマート、クローガー、コストコ、ターゲットの4社のみが占めた。食品加工業界もペプシコ、クラフトフーズ、ネスレの上位3社を含む巨大多国籍企業20社の独占となった。また、クリントン政権下の商品市場の規制を緩和する「商品先物近代化法」により、「食品価格」は株式と同じようなマネーゲームの対象になった。

3 GM種子で世界を支配する
 イラク戦争終結後、アメリカはイラクの国の枠組みを、CPA(連合国暫定当局)作成の100本の法律(命令)を施行することで合法的に作り変えた。国営企業200社は民営化され、外資系企業に100%の株式所有と40年の営業権が与えられた。従業員の労働条件は大幅に切り下げられ、急速に拡大した収益はすべて国外に送金された。さらに、外資系企業参入を容易にするため、法人税を40%から15%に削減、関税、輸入税、ライセンス料などもすべて廃止した。これにより大量の外国製品が流れ込み、イラクの国内産業を次々に破綻に追い込んだ。

 CPA81令の(植物品種法=PVP)によって、イラクの国内法は見事に上書きされ、イラク農民の伝統には終止符が打たれた。「今後あらゆる新製品やその製造技術は特許で保護される。保護された製品は、20年間の保護期間、特許所有者の許可なしでの不正利用、製造、使用及び販売をしてはならない」。前年の種子を保存したり、隣近所の農家同士で交換や交配させる行為が、突如として違法になった。イラク農民には新しく特許で保護される種子を生み出す能力はなく、アグリビジネス企業のGM種子ばかりが次々に特許を取得していった。イラク人の種子バンクは米軍に爆撃され、種子はすべて破壊された。イラク農家は、すべての種子(GM)を毎年必ずモンサントやシンジェンタ、ダウ・ケミカルのような大手アメリカ企業から買わなければならなかった。

 モンサント社は、綿花生産世界第3位のインド大手種子企業マヒコ社を買収、その後インドでのBt綿の販売許可を取得。Bt綿は、遺伝子操作技術で細菌由来の殺虫性毒素を導入した、蛾の幼虫を寄せ付けないGM綿である。インド政府の指揮により、市場では在来種の4倍の値段のBt綿種子しか売られなくなった。綿農家は高価なBt綿種子を買うために借金をし始めた。Bt綿種子使用の数年後、収穫量が下降し、農薬使用量も耐性害虫により倍増した。しかし、モンサント社の洗練されたマーケティング戦略により、Bt綿花の全国制覇が実現した。

 その他、IMF(国際通貨基金)が緊急融資の交換条件とした国内民営化と規制緩和によって、底値となった農地が多国籍企業に買い占められ、モンサント社のGM大豆栽培が事業化され、輸出用GM農地(大豆)と化したアルゼンチン、マグニチュード7の地震により、31万6000人の死者と地域一帯の壊滅的被害を生じ、モンサント社からGM種子で被災地復興の支援を受けた中南米のハイチ、NAFTA(北米自由貿易協定)によって、大量のGM種子が流れ込んだメキシコ等々。この流れはFTAやTPPによって世界中に拡がっていく。

4 切り売りされる公式サービス
 デトロイトは10年間で住民の4分の1が郊外や州外に逃げ出した。財政破綻による「財政削減」で、市は公共部門の切り捨てを実施、学校や消防署、警察などのサービスが次々に凍結されている。こうした傾向は全米の自治体で起きており、「全米の自治体の9割は5年以内に破綻する」とも言われている。公立校が潰れると直ぐにチャータースクール(営利学校)が建てられるが、高い授業料を払えるだけの経済力と一定以上の学力が要求されるため、教育難民となった子供達が路上に溢れる。教育の市場化は公教育を破壊して教育格差を作り出し、教育ビジネスで投資家と大企業に利益をもたらす。

 ミシガン州の州法「非常事態管理法」は、財政難に苦しむ州の自治体に代わって、選挙ではなく州知事が任命した「危機管理人」に財政健全化の指揮権を与える。管理人は、債務を減らしバランスシートを調整する目的で、自治体の資産売却、労働組合との労使契約の無効化、公務員の解雇、公共サービスの民営化などを、一切の民意を問うことなく行使する権限を持つ。危機管理人は公立学校を閉鎖し、新しいチャータースクールの運営を教育ビジネスの多国籍企業にまかせる。危機管理人の権力範囲が拡大し、消防署や警察、公園、図書館などが廃止され、自治体そのものをそっくり民営化するような処置が採られるようになる。そしてついに富裕層だけを対象として、政府ではなく民間企業が運営する自治体が作られ、これら複数の自治体が集まって独立特区を形成していった。

5 「政治とマスコミも買ってしまえ」
 フロリダ州の州法「正当防衛法」は、身の危険を感じたら公共の場でも殺傷力のある武器使用が認められるというもので、場所が自宅や社内であれば傷害致死でも逮捕はされず、正当防衛かどうかの立証責任も被害者側のみに義務づけられる。この法律の成立に尽力したのはNRA(全米ライフル協会)である。全く同じ内容の法律が、フロリダ以外の32州でも導入されているのは、米国立法交流評議会(ALEC)の関与が大きい。ALECは、州議会に提出される前段階の法案草稿を、議員が民間企業や基金などと一緒に検討するための評議会。ALECは「フォーチューン500」の上位100企業の半数がメンバーで、政策草案を作っていたのは多国籍企業の面々である。議員は裁決された法案を自分の法案としてそのまま州議会に提案する。

 最高裁の違憲判決(市民連合判決)で、企業献金の上限が事実上撤廃された。さらに、米国籍でない外国企業でもPACという民間政治活動委員会を通すことで、匿名で献金できるようになった。石油をはじめとして各業界の「貿易連合」の政治献金が拡大し、世界の大企業がアメリカ政府の政策に影響を与えている。市民連合判決の後選挙広告費は8倍以上に拡大し、大手テレビ局は最も恩恵を受けた。寡占化によって巨大化した多国籍企業は、立法府を買い、選挙を買い、マスメディアを買うことでさらに効率よくその規模を広げていく。異常な額の選挙権金が、勝敗だけでなくその後の大統領や州議会議員の政策も支配する。アメリカの民主主義は「1%」によってすべてが買われている。そして「1%」は二大政党両方に投資する。

 急速な買収・合併により、アメリカ国内の全メディアがわずか5社の娯楽系多国籍企業傘下に組み込まれるという寡占化状態が誕生した。民放テレビは、5大テレビネットワークに支配され、そのCM代理店も数社が支配する構図になった。独立法人「大統領討論委員会」は、討論会手続きを非公開とし、候補者の参加条件を「全国得票率15%」まで大幅に引き上げることで、第三党を閉め出した。討論内容も二大政党が基本合意済みのテーマばかりになった。市民運動さえも企業が利用するようになっている。


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