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 斉藤貴男著「安倍改憲政権の正体」を読みました。総頁わずか63頁の岩波ブックレットで直ぐに読了できるが中身は濃いです。本書は安倍政権の本質をえぐり出す好著であり大いに共感しました。政権を支持する人もそうでない人も、ぜひ一読していただきたい。電子書籍にしてもっと多数の人に読んで貰えば良いのに残念です。その代わりというわけではないが、本ブログで逐次、本書の目次に沿って内容紹介したいと思います。

3 衛星プチ帝国の臣民を育てるために-----教育は誰のものか(その2)
 「教育再生実行会議」の委員は、普通の時代なら、公の諮問機関に参加させづらい安倍ブレーンらが露骨に登用されており、「お国のため」の教育という雰囲気が漂ってくる。八木秀次(高崎経済大教授)は、従来の教科書を「自虐史観」に基づいていると批判している「新しい歴史教科書をつくる会」の元会長、加戸守行(前愛媛県知事)は、県教育長に指示して「つくる会」系の教科書を採択させた元文部官僚、河野達信(全日教連委員長)は、八木教授の「日本教育再生機構」の代表委員で、全日教連は常に政府と同一歩調を取る保守系の労働組合である。曽野綾子(作家)は、イラク戦争で武装グループから救出された三人に、「救出に要した費用を国庫に返せ」と難じていたし、森政権の「教育改革国民会議」では、「日本人へ」と題する第一分科会報告をまとめ、「炊きたてのご飯や安らかな眠り、週末の旅行を誰が可能にしてくれたか、誰もがそのことに感謝を忘れるな」と説教していた。「お国のおかげです」と言わせたいのだ。副座長の佃和夫(三菱重工取締役相談役)は、社長、会長時代を通じて国策としての原発輸出を牽引してきた人物で、軍需・原発産業のトップである。座長の鎌田薫(早稲田大総長)は、有名な民法学者で、司法制度改革以前に激しい法科大学院批判で定評があったが、現在では「法科大学院協会」の理事長を務め、法務省の「法曹養成制度検討会議」をはじめとする政府の各種審議会の常連になっている。
 問題は、このような人々にわが子の教育を差配されてよいのだろうかということだ。

 「教育再生実行会議」の第一次提言の目玉は「道徳の教科化」で、これを受けて文化省には「道徳教育の充実に関する懇談会」が設置され、会合を重ねている。道徳が教科化されれば、教師による評価の対象になり、点数化される。人間の価値観や主観、あるいは「心」の領域に、教育の名の下に国家が介入してくることを意味する。改正された教育基本法が掲げる「国を愛する態度」の涵養という教育目標が、どこまで個々の児童生徒に徹底されているのかもまた、政府の定める基準によって測られることになる。政府の求める「愛国心」を持ち合わせていないと判断された生徒は内申点も低くされ、希望する学校への進学が叶わないというデタラメが、現実になる危険がある。

 松井茂記著「日本国憲法」を読みました。本書は、法学部で憲法を学ぶ学生のための教材として書かれたもので、裁判所による憲法の解釈に焦点を当てて、日本国憲法に関する解釈を理解するための助けとなるよう意図されています。憲法理解のパラダイムとしては支配的な立場にある実体的憲法観の他に、プロセス的憲法観があり、本書は後者の立場を提示しているということです。すなわち、憲法は政府のプロセスを樹立し、規律したものであって、実現されるべき価値を宣言したものではないというプロセス的憲法観、基本的人権は、国民の政治参加のプロセスに不可欠な諸権利を保障しようとしたもので、統治機構の部分と同じプロセスの保障としての性格を持っているとするプロセス的基本的人権観、そして憲法の立脚する民主主義原理の下では、この政治参加のプロセスの保障こそが裁判所にふさわしい役割であるとするプロセス的司法審査理論を提示しています。

 総論では、日本国憲法制定の歴史的経過が記されており、連合国による押しつけ憲法という考え方は一面的な見方に過ぎず、GHQは憲法改正草案を提示はしたが、憲法改正を日本政府に命令することは避けていた。日本政府は、GHQの草案を基礎として憲法改正作業を行うことを閣議決定し、草案にかなりの修正を加えた試案をGHQに提出して折衝、最終案を固め、「憲法改正草案」としたということです。そして帝国議会で審議のうえ可決され、日本国憲法として公布、施行されたのです。

 本書は教科書であるため内容は網羅的で多岐に渡り、簡単に要約することは不可能ですが、各国の憲法の歴史も踏まえながら、憲法の意味、憲法解釈、憲法訴訟と判例、憲法学説など詳細に解説されており、すごく勉強になりました。安倍政権が「自民党の改憲草案」に沿って憲法改正をしゃにむに推し進めようとしている危険な現況に鑑み、憲法を十分に理解しておくことは大事なことだと考えます。

 斉藤貴男著「安倍改憲政権の正体」を読みました。総頁わずか63頁の岩波ブックレットで直ぐに読了できるが中身は濃いです。本書は安倍政権の本質をえぐり出す好著であり大いに共感しました。政権を支持する人もそうでない人も、ぜひ一読していただきたい。電子書籍にしてもっと多数の人に読んで貰えば良いのに残念です。その代わりというわけではないが、本ブログで逐次、本書の目次に沿って内容紹介したいと思います。

3 衛星プチ帝国の臣民を育てるために-----教育は誰のものか(その1)
 安倍首相は、第一次政権で教育基本法を改正し、「国を愛する態度」の涵養を教育の目標に盛り込むと同時に、教員免許の更新制度や成果主義による評価制度などを導入し、教育の国家管理を強化する方向性を打ち出した。内閣に設置した有識者会議「教育再生会議」では教育分野での競争原理の徹底が主なテーマになっていた。今回の安倍政権では、「内閣の最重要課題の一つである教育改革を推進する」ため、「教育再生実行会議」が設置された。自民党内にも総裁直属の機関として「教育再生実行本部」が発足。これまでの動きでは、競争原理よりも国家主義的な側面が強く打ち出され、より安倍らしい教育観が反映されている。

 安倍政権が、これほど「教育改革」に前のめりなのは、前述の「日本ごっこ」つまり、アメリカの属国になればなるほど「愛国心」を強調しないことには自分たちのアイデンティティが消え失せてしまう予感があるからだ。また、安倍政権が夢見ている国家像-----「衛星プチ(ポチ?)帝国」を実現するために役立つ人材育成という目的もある。自民党の「改憲草案」では第26条に第3項を追加し、「国は、教育が国の未来を切り拓く上で欠くことのできないものであることに鑑み、教育環境の整備に努めなければならない」とする条文を新設した。教育は個人一人一人のためと国家社会のためという二つの側面があるが、「改憲草案」は、後者だけをわざわざ条文化するという。これは、個人などは後回しで国家のための教育を叩き込むことを意図していることは明白である。

 自民党の「教育再生実行本部」が安倍首相に提出した「第一次提言」では、「成長戦略実現上、投資効果が最も高いのは教育」であり、「結果の平等主義から脱却し、トップを伸ばす戦略的人材育成」だとする独自の教育観が披露されている。さらに、「英語教育の抜本改革」と「理数教育の刷新」、「ICT教育」が「グローバル人材育成のための三本の矢」であり、実現を後押しするためには一兆円規模の集中投資と「グローバル人材育成推進法」の制定が必要だと強調。大学の受験資格や卒業要件、および国家公務員の採用試験に「TOEFL}を取り入れたり、文系の大学入試でも理数の力を重視するべきだといった提案をしている。まさに、総合商社の新入社員研修制度みたいだ。

 安倍政権の「教育改革」が目指しているのは、あくまでも「衛星プチ(ポチ?)帝国」である。日本がグローバル・ビジネスの世界で支配的な国家たらんとするに際し、そのリーダーとなるべき人材は、アメリカに徹頭徹尾従属しながら、しかも国内向けの「日本ごっこ」だけはギリギリまで貫き、かつアイデンティティが崩壊しない一種の「鈍感力」を湛えていなければならない。かくして、ネオリベラリズムとネオコンサーバティブが、属国の教育分野で結ばれることになる。

ネット記事によると、日本出版者協議会は10月10日、政府が法制化を進める同法案について、「報道・出版の自由を制約し、国民の知る権利を侵害する危険な法律。悪用が懸念される法律をつくる必要はない」と断固反対の意思を表明したという。
特定秘密は行政の長(大臣)が指定し、秘密指定は30年間続くことなどに触れ、その危機感を表した。「パブリックコメントの募集も2週間と短く、強引なやり方」とし、法案提出をやめるべきと訴えている。

国家権力による情報統制は、戦前の国家主義的な監視社会への第一歩だから、あらゆる分野で反対の声を上げる必要があります。

 斉藤貴男著「安倍改憲政権の正体」を読みました。総頁わずか63頁の岩波ブックレットで直ぐに読了できるが中身は濃いです。本書は安倍政権の本質をえぐり出す好著であり大いに共感しました。政権を支持する人もそうでない人も、ぜひ一読していただきたい。電子書籍にしてもっと多数の人に読んで貰えば良いのに残念です。その代わりというわけではないが、本ブログで逐次、本書の目次に沿って内容紹介したいと思います。

2 アベノミクス、TPP参加が意味するもの(その2)
 TPPはアベノミクスの延長線上にあり、安倍の対米従属政策の一環である。アメリカの国家戦略は、米国防総省の戦略計画補佐官を務めたトマス・バーネット著「戦争はなぜ必要か」に述べられているように、グローバリゼーションを経済と安全保障の一体的ルールセットとして推進し、世界のリーダーとしての役割を果たすことである。アメリカは、軍産複合体で多国籍企業が世界中で展開しているグローバルビジネスを、軍事力でプッシュする国家体制をとっている。TPPはアメリカにとって専ら対日政策である。なぜなら、TPP参加国のGDP全体の8割を日米両国で占めるのだから、アメリカにとって日本が参加しないと意味がない。「日米構造協議」、「構造改革」に続くアメリカによる日本市場支配の総仕上げであり、日本の商習慣や法律、そして社会全体のアメリカへの同化が、一気に完成へと近づけられることになる。

 安倍政権を信用できない要素の一つに、ことさら「日本」を謳い上げる態度がある。国益を重視するならなぜ、アメリカと真正面から向き合い、主張すべきことを主張しないで、過去の戦争を美化したり、内向けのナショナリズムや、中国や韓国に対する差別意識を駆り立てることばかりしたがるのか。それは、権力を世襲している彼らにとって、戦後連綿と受け継がれてきた選択、つまり日本をアメリカ=グローバル巨大資本の属国であり続けさせることは、単に政治や外交の領域だけにとどまらず、彼ら自身が生きていく上での絶対的な存在理由(レゾンデートル)でもあるのだろう。しかしそれだけでは辛すぎるし、いかにも属国では国民も易々とは許してくれるはずがない。だから日の丸・君が代であり、「主権回復の日」であり、靖国神社であり、「従軍慰安婦などいなかった」のであり、「僕のおじいちゃんは正しかった」のであり、「自主憲法」の制定なのであり・・・。

 つまりはガス抜き。アメリカもそんなことは十分に承知しているから、靖国神社への閣僚参拝や尖閣列島を巡る中国との小競り合いもある範囲では黙認してくれた。石原のような人材を適当に焚きつけて尖閣問題での日中対立を煽り立て、在日米軍の存在感を見せつける場面も見受けられる。アメリカというお釈迦様の掌の上で「日本ごっこ」をやってはしゃいでいるようなもので、つくづくみっともないと思う。日本のリーダーを辞任する人々がやらなければならないのは、何よりも先ず、本当の意味で独立した国として行動することだと思う。

 井ノ口馨著「記憶をコントロールする」を読みました。分子・細胞レベルの記憶研究の最前線を解説したもので、新しい知見が得られます。

 脳における記憶の貯えられ方としては、ヘッブが提唱したセルアセンブリ仮説がある。これは、ニューロンは通常静止状態にあるが、情報が入ってくるとあるニューロンのセットが活動し、別の情報には別のニューロンのセットが活動するという説で、異なる記憶は異なるニューロンのセットという形で符号化されているというもの。符号化は各シナプス結合の伝達効率の変化による。「想起」はある特定セットのニューロン群が再び活動することで生じ、「忘却」は強化されたシナプス結合が元に戻り、ニューロンのセットが消滅することで生じる。

 セルアセンブリ仮説は、実験技術の飛躍的な進歩によって2012年に実証された。マウスによる音恐怖条件付け実験で、音と電気ショックを組み合わせた恐怖記憶を形成し、一定期間経過後、音だけを与えて学習により恐怖記憶を獲得したことを確認後、学習時に活動したニューロンのセットだけを遺伝子技術を使って死滅させます。長期記憶が獲得される際、脳内で発現が誘導される遺伝子c-fosのプロプロモーター領域の下にジフテリア毒素の受容体遺伝子をくっつけておくと、学習時に活動したニューロンでのみジフテリア毒素の受容体が発現する。そこに外からジフテリア毒素を加えると、受容体を発現しているニューロンだけが死ぬ。その結果、学習した記憶だけを思い出すことができなかった。これで、学習時に活動したニューロンのセットが、記憶の保持あるいは想起に不可欠であることが明らかになった。しかしこれだけでは不十分で、学習時に活動したニューロンのセットだけを再び人工的に活動させたときに、その記憶が想起されることを実証する必要がある。

 光遺伝学は、緑藻類が持っているチャネルドロプシンという分子を、特定のニューロンに発現させることによって、人工的に特定のニューロンの活動を調節する技術。緑藻類の場合、光が当たると細胞膜にあるチャネルドロプシンが開いて、カチオン(NaイオンやKイオンなどプラスイオン)を透過させる。チャネルドロプシンをニューロンに発現させておけば、外から光を当てることによって、ニューロンの活動を人工的に制御できる。いわば脳の活動を自由に操ることができる技術である。
マウスによる文脈性の恐怖条件付け実験で、新しい箱で環境が変わったという文脈性の変化と電気ショックを連合して記憶し学習させ、一定期間後に再び箱に入れてすくみ反応の有無で記憶想起が生じているかどうかを判定する。事前にc-fos遺伝子というプロモーターを使って、学習したときに活動したニューロンにだけ特異的にチャネルロドプシンを発現させるようにしておく。マウスを箱に入れ、電気ショックを与える。1日以上経った後同じ箱に入れるとすくみ反応を示すが、違う箱に入れると安全だと思ってすくみ反応を示さない。そこで海馬あたりにグラスファイバーを差し込んでレーザー光を当てると、途端にすくみ反応を示したが、光を消すと動き回った。つまり、学習時に活動したニューロンのみを後で人工的に活性化させることで、学習した記憶を想起させることができたということで、セルアセンブリ仮説が実証された。

 脳の神経新生は記憶の獲得だけでなく、海馬から記憶を積極的に消去し、大脳皮質へ移す役割を果たしている。トラウマ体験時に神経新生を促進させる(例えばDHA,EPAの服用)ことにより、体験と関係のない記憶と連合しやすい海馬の記憶を早く大脳皮質に移して独立の記憶として貯蔵することによって、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状を緩和することができる。また、加齢による記憶力低下が、古い記憶の残留によって海馬の容量が飽和しているためだとすれば、神経新生を促進することで記憶力の低下を抑えることができるかも知れない。

 記憶の分類として、短期記憶と長期記憶がある。記憶する時に、脳内のニューロンで遺伝子発現や蛋白質合成を必要とする記憶を長期記憶、必要としない記憶を短期記憶と呼ぶ。最初に見つかった長期記憶に必要な遺伝子は転写因子CREBで、他の遺伝子の発現を誘導する役割を果たしている。記憶後10分から1時間後に発現される最初期遺伝子と、2~3時間から10時間後に発現する後期遺伝子がある。長期記憶では、短期記憶と同様にシナプスの伝達効率を変化させるが、それだけではなく、形態可塑性と言うシナプスそのものを太く大きくして、構造的な変化を起こす働きもある。

 複数の記憶に対応する複数のニューロンセットで、オーバーラップによる記憶の混同が起きないのは、シナプス特異性によって説明できる。つまり、ある記憶に対して、セット中の各ニューロンは限られた特異的なシナプスでだけ伝達効率を上げる長期増強を起こす。短期記憶はこれで説明できる。長期記憶の場合、細胞体で作られた可塑性関連蛋白質PRPが、数万個あるシナプスの内特定のシナプスにだけ運ばれて機能するメカニズムを解明する必要がある。シナプスからシグナルが来ると、細胞体はPRPを大量に合成してニューロン内のすべてのシナプスに送る。しかし、シグナルを出したシナプスにはタグが付いていて、到達したPRPは機能するが、タグのない他のシナプスに到達したPRPは機能しないというのが、シナプスタグ仮説である。これを実証するため、PRPのひとつであるVesl-1SにGFP(緑色蛍光タンパク質)を融合させ、その移動先を顕微鏡で観察した結果、ニューロン内のすべての樹状突起に運ばれていることが分かった。しかし、運ばれてきた蛋白質は、後部シナプス先端にあるスパインと呼ばれる突起の入り口にあるゲートが開かないと中に入らない。ゲートはシナプスに入力を与えたときに開く。これでシナプスタグ仮説が実証された。

 獲得された記憶は、保持されている状態で記憶を思い出すと不安定化のサイクルに入り、再固定化されるというプロセスを経る。これは記憶の強化および古い記憶と新しい情報との連合で記憶がアップデートされるのに役立つからではないかと思われるが、実証されていない。

 記憶研究も急速に進歩していることが実感されました。将来、本当に記憶をコントロールできる日が来るかも知れません。権力者が不都合な現実を住民の記憶から消去して、都合の良い偽の記憶を植え付けるという悪夢のような世界がこないように、今からでも、一人一人が権力者の出してくる政策をチェックし、自分の頭でその適否を判断していかなければなりません。

 斉藤貴男著「安倍改憲政権の正体」を読みました。総頁わずか63頁の岩波ブックレットで直ぐに読了できるが中身は濃いです。本書は安倍政権の本質をえぐり出す好著であり大いに共感しました。政権を支持する人もそうでない人も、ぜひ一読していただきたい。電子書籍にしてもっと多数の人に読んで貰えば良いのに残念です。その代わりというわけではないが、本ブログで逐次、本書の目次に沿って内容紹介したいと思います。

2 アベノミクス、TPP参加が意味するもの(その1)
 アベノミクスは市場原理を最上級の価値とする新自由主義に自民党式土建屋政治を混ぜこぜにしたもので、小泉政権よりネオコンの側面を強く打ち出している分だけ、旧来型の保守層を支えていたケインジアンの入り込む余地が拡がった。そのため冨の再分配や公正さ、平等の理念に対する目配りはゼロだが、経済成長だけを目指す立場においては、完全に無視されて怒り狂う論者が出ないように組み立てられている。アベノミクスは小泉・竹中路線の焼き直し、更なる徹底以外の何物でもない。

 日本は中曽根政権以来の流れの中で、殊に小泉政権あたりから一気に進められてきた大改造の総仕上げの段階に入ろうとしている。グローバル巨大資本やアメリカ政府、日本の財界など、この国の大改造を推進あるいは歓迎している人々にとって、安倍晋三は様々な意味で便利な人材だろう。数年前にたった一年で政権を投げ出す醜態をさらしながら、昨年末の総選挙であっさり首相の座に返り咲いたのも、そうした勢力の使命を帯びていればこそということではないか。だからアベノミクスも為替市場や株式市場には前向きに評価してもらえる。

 安倍は2月末の施政方針演説で、「世界で一番企業が活躍しやすい国を目指します」と宣言した。これは、安倍が労働者の生活を第一に考えている政治家ではないことを端的に示している。「第三の矢」の本命は「雇用制度改革」である。非正規雇用の拡大が図られた従来の改革に対して、今後のターゲットは、正社員の首をいかに切りやすくするかである。例えば、不当解雇でも金で解決できたり、職務や勤労地、労働時間などを絞り込んだ「限定正社員」制度を新設して、いつでも事業所ごと切ってしまえる仕組み、ホワイトカラーを労働基準法の定める労働時間規制の対象から外し、裁量労働制を適用する「ホワイトカラー・エグゼンプション」(WE)等々である。アベノミクスでGDPや株価、日銀短観などの経済指標が好景気を示したとしても、富の再分配が公正に行われる仕組みがなければ、普通の生活者が豊かになることにはならず、むしろ階層間の格差が広がるのが実態である。しかし、消費増税を実現するためには増税法案の「景気条項」をクリアするために、何が何でも好景気を演出しなければならないのだろう。

 消費税は消費者が負担するだけでなく、あらゆる商品やサービスのすべての流通段階で課せられ、個々の取引で力関係の弱い側がより多くの税負担を強いられる。例えば、大手安売りスーパーの近所のお菓子屋さん、メーカーの下請け工場、大手スーパーと中小卸商の関係など、弱い事業者はどんどん潰れていく。消費税とは、弱者のわずかな富をまとめて強者に移転する税制である。消費増税法案は、財政の健全化と社会保障の充実を謳って可決成立したが、自民党はその直前に「国土強靱化」なる中長期計画を打ち出し、今後の10年間で200兆円の公共事業を実施するという。財源は当然、消費増税による税収である。消費税のために全国規模で倒産や廃業、自殺者が激増し、国民の生き血を吸いながら「国土強靱化計画」が進められるという地獄絵図がもうすぐそこまで来ている。

 斉藤貴男著「安倍改憲政権の正体」を読みました。総頁わずか63頁の岩波ブックレットで直ぐに読了できるが中身は濃いです。本書は安倍政権の本質をえぐり出す好著であり大いに共感しました。政権を支持する人もそうでない人も、ぜひ一読していただきたい。電子書籍にしてもっと多数の人に読んで貰えば良いのに残念です。その代わりというわけではないが、本ブログで逐次、本書の目次に沿って内容紹介したいと思います。

1 安倍政権をどう見るか
 4月28日に執り行われた政府主催の「主権回復・国際社会復帰を記念する式典」において、安倍首相ら三権の長らが揃って「テンノーヘイカッ、バンザーイ!」と万歳三唱したという。沖縄ではこの日「4.28『屈辱の日』沖縄大会」が開催され、未だに米軍基地の重荷を負わされていることに怒りを表したが、安倍政権はこれに無関心であった。また、日米安保体制の枠組み最優先の対米従属政策によるアメリカの属国化を進めながら、一方では「戦後レジームからの脱却」を唱えている。安倍が言う「戦後レジーム」は戦争を否定する日本国憲法のことのみを指すのであって、アメリカの属国であることの問題意識はない。むしろ日本の属国としての値打ちを上げることに尋常ならざる使命感を燃やし、「屈辱の日」を「主権回復の日」と言いつのり、国内の抵抗を無視して政府式典という名目で、アメリカへの忠誠心をワシントンにアピールした。

安倍政権が突き進もうとしている日本の将来像は、戦争を厭わずアメリカの世界戦略の補完機能を積極的に努めることによって、さらに可愛がっていただける国にしていくことではないか。「主権回復記念式典」は、安倍政権のエッセンスを凝縮したイベントだったと位置づけられる。アメリカの属国であり、かつ大国らしく振る舞うことのできる「衛星プチ(ポチ?)帝国」。

 安倍は昔の帝国主義時代の植民地の総督のようなもので、宗主国アメリカには頭が上がらないが、植民地および周辺国に対しては居丈高な支配者として振る舞うということでしょう。


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