白井聡著
「永続敗戦論」
を読んだ。なぜ日本の政治はこんなにも閉塞感をもたらすのか?これまで不満、憤り、絶望を感じることはあっても、その根本原因を考えるまでには至らず、漠然と選挙制度や政治家の資質の問題だと思っていた。本書はそんな単純な思考を粉砕し、敗戦にまともに向き合わなかった日本の歴史的必然であるという、目の覚めるような視点をもたらした。
本書で言う「永続敗戦」とは、敗戦の帰結としての政治・経済・軍事的な意味での直接的な対米従属構造が永続化される一方で、敗戦そのものを認識において巧みに隠蔽する(=それを否認する)という日本人の大部分の歴史認識・歴史的意識の構造が変化していない、という意味で敗戦は二重化された構造をなしつつ継続しているということ。この二側面は相互補完関係にあり、敗戦を否認しているが故に際限のない対米従属を続けなければならず、深い対米従属を続けている限り敗戦を否認し続けることができるという状況を指している。永続敗戦の構造は「戦後」の根本レジームとなり、これを維持、活用してきた政治勢力(自民党を中核とする政・官・財・学の集合体)が長きにわたり権力を独占してきた。現政権はその末裔であり、国体護持を至上とする戦前への復帰を志向する中で、憲法改正や原発事故対応、対アジア外交などにみられる無神経・無責任な腐敗政策を進めるのも、それに対する国民からの批判や抗議の声があまり聞かれないのも歴史的必然なのかも知れない。
驚異的な戦災復興と経済発展に支えられてきた「平和と繁栄」から、経済停滞と軍事的危機を伴う「戦争と衰退」へと向かいつつある今日、国民一人一人が、自分の頭で何が真に大事かを熟考し、自覚的に歴史的意識を刷新するとともに、できることから行動に移さなければならない。そうでなければ、自らの利権だけを追求する無責任な腐敗権力集団が、国民を餌食としながら日本を取り壊すことになる。一人では何もできないと思っている人に、著者がエピローグで引用しているガンジーの言葉を贈る。
「あなたがすることのほとんどは無意味であるが、それでもしなくてはならない。そうしたことをするのは、世界を変えるためではなく、世界によって自分が変えられないようにするためである。」