山田宗樹著
「百年法」
を読みました。バイテクによる不老不死が実現した世界。人口爆発と社会停滞を防ぐために、不老化処置を受けた国民は処置後百年で安楽死させられる、という「百年法」が国民審査にかけられるが否決される。その後の社会衰退になすすべのない政府・与党に見切りを付けた官僚と政治家が新党を結成して選挙で大勝、独裁的権力を持つ大統領・首相のもとで「百年法」を制定、実施する。しばらくは経済的復興を謳歌するが、「百年法」の拒否者によると思われるテロの多発、政権の腐敗、権力闘争、治療法のない同時多発性臓器がん発症の増大などで、次第に社会が衰退していく。
そして、多発性臓器がん研究機構から、不老化処置を受けた者は後16年以内に全員死亡するとのシミュレーション結果が通知される。多発性臓器がんで余命いくばくもない大統領から全権委任された首相は、不老化処置と「百年法」の廃止、20年限定の独裁官による国家運営を国民審査にかける。
設定は近未来の日本ですが、背景の出来事と年代の関係を見ると、この私達の歴史の延長上にある未来ではなく、あり得たかも知れない別の歴史上の日本の不老不死社会を描いたものです。設定は確かにSF的ですが、不老不死の実現が不老不死ウィルスの注入によるとあるだけで説明が弱いし、同時多発性臓器がん発症が不老不死ウィルスの変異によるというのも単純すぎると思います。また、外国では最初から不老化処置と「百年法」はセットになっているのに、日本だけがなぜそうでないのか分かりにくいのです。この作家の初めてのSF巨編ということですが、SF的設定のもとで政治や国家のあり方を語っている政治小説のように思われます。面白いけれどセンスオブワンダーがあまり感じられませんでした。