上田早夕里著
「華竜の宮」
を読みました。地球惑星科学におけるプルームテクトニクス理論をベースに、海底隆起による陸地の水没とその50年後の世界各地での大規模なマグマの噴出という二度にわたる大災厄に直面した人類の生存をかけた戦いを描いた黙示録的海洋SF巨編です。
海底隆起による陸地の水没に対しては、残された陸地と海上都市に高度な情報社会を維持した陸上民と、遺伝子操作によって魚船と呼ばれる生物船と改良人間の双子として生まれ、海で共生する海上民が共存していた。しかし、陸上民の各国家連合の思惑がからみ、次第に陸上民と海上民の確執が深まる中、国際環境研究連合は、50年後に世界各地で大規模なマグマの噴出が起こり、陸地も海上都市も壊滅的な打撃を受け、成層圏まで舞い上がった粉塵による太陽光の遮断により、生物は絶滅の危機に瀕すると予測する。
人類と文明の絶滅の危機に対して採られた対策は、海上都市のドーム化、遺伝子改変による人類の深海生物化、人類文明のすべてを記録保存したアーカイブを搭載した月面ロケット打ち上げ、人類文明アーカイブと人間より環境耐性のある疑似人間の遺伝子データと形態発現用資材、および管理制御用の人工知性体を搭載した太陽系外宇宙ロケット打ち上げであった。
小松左京賞を受賞しデビューした作家だけあって、精緻な科学理論をベースとして大災厄に直面した人類と文明の未来を、ある世界観をもって描いた壮大な本格SFになっています。最近はなぜかライトノベルみたいなチマチマしたSFが多くて物足りなく感じていますが、この作品は久しぶりにSFを読む醍醐味を味わせてくれました。