ジヨンジヨー・マクファデン著
「量子進化」
は、細菌で見つかった適応変異という現象の謎が、量子力学の原理を当てはめることで旨く説明できたことから、生命誕生、進化、意識といったこれまでの理論では十分には解明されていない謎に対しても、ミクロな現象を扱う量子力学を適用して説明しようとするものです。
生命の起源については、化学物質の複合混合物、すなわち原始スープから最初の自己複製物質がどのようにして生まれたかを説明できなければならないが、標準的な化学熱力学ではその溝を埋めることは極めて困難である。最初の複製物質が32アミノ酸の短い自己複製ペプチドに似たものだったと仮定しても、32アミノ酸の長さのペプチドを作る方法は20の32乗すなわち10の41乗とおりあり、目標とする特定の自己複製ペプチドができる確率は10の41乗分の1と絶望的に小さい。
しかし、量子力学における量子の重ね合わせを考えれば、最初のアミノ酸から32番目のアミノ酸まで順次付加されていく量子系は、量子レベルのままである限り10の41乗種類すべてのペプチドが重ね合わせられた状態になり得る。この量子系が唯一の経路を通って特定の自己複製ペプチドに収縮するのは、原型細胞中の原始酵素が環境と結合することで、量子測定効果をもたらすデコヒーレンスによってペプチドの量子状態が崩壊して古典状態になるという過程が順次繰り返されていって、自己複製できる原始酵素に行き当たったとき、不可逆的に収縮し重ね合わせの外に出て古典状態に釘付けされることによる。
細菌で見つかった適応変異は、それが細胞にとって有利なときに頻度が高くなる現象で、突然変異は進化的変化の方向に関してつねにアトランダムとする標準的な新ダーウィン進化論と完全に矛盾する。この説明としては、上記の量子測定効果が有効と思われる。すなわち、細胞の周囲環境の組成などの状況が細胞の量子測定装置の準備を整え、細胞が有利な変異をコードするDNA陽子の位置を測定できるようにする。細胞はDNA塩基の位置についての密集した一連の測定を行い、それによって陽子の挙動をかき乱し、突然変異の割合を増加させる。このようにして、量子測定は有益な突然変異を促進し、適応変異をもたらして進化を引き起こすのであろう。
細胞以前の進化および細胞の進化の初期の段階は、量子進化に支配されていたと考えられるが、現在でも微生物の進化や多細胞生物の一つの細胞の変異に何らかの役割を果たしているかもしれない。多重薬剤耐性菌の出現や細胞の変異であるがんの発現は適応変異で説明でき、量子進化が適応変異を起こすのであれば、量子進化は現在も生物の中に健在していると言える。
意識については、脳活動により生じる意識の電磁場とニューロンネットワークとの相互作用における量子測定を通じて生み出されるとする意識の意識的電磁場理論が提示されています。これを次の三つの命題が真であるかどうかで検証しようとしています。一番目は、脳がニューロンのかなりの部分を囲む電磁場を生じること。二番目は、意識が脳の電磁場の産物であること。三番目は、脳の意識的電磁場がニューロン発火に影響すること。一番目は、大脳皮質における電気作用によって生じる電磁波を記録する脳波図モニタリングが一般的に行われていることから真である。二番目は、脳波図および脳磁図の研究から、脳波図波を生じるための皮質の異なる領域の同期的発火は認識や注意と相関するという証拠が得られていること、動物や人間の習慣性には、脳の電磁場全体の動揺の減少が伴うという証拠があることから、真であろう。三番目は、ニューロン発火は通常、電位依存性イオンチャネルが開くことによって開始されるが、電位依存性イオンチャネルは脳の電磁場に反応することから真であろう。発火に必要な閾値電位に近いところで変動するニューロン群は、脳の電磁場に非常に敏感である。
意識的電磁場とニューロンの相互作用は、そこに伴う光子の数に依存して、量子的レベルまたは古典的レベルのどちらでも起こる。イオンチャネルが静止ニューロンの中にあってチャネルが閉じたままであるか、開いても直ぐに閉じてしまう場合や、これから発火しようとしているニューロンの中にある場合は、相互作用は量子的であり続ける。しかし動作電位の瀬戸際にあるニューロンの中の決定的なチャネルである場合、最大限の環境との絡み合いのもとでデコヒーレンスは瞬間的におこり、光子は意識的電磁場の量子成分として、吸収されるか否かを選択しなければならず、量子測定が行われる。脳のニューロンネットワークおよび無数の電磁場感受性イオンチャネルは、ニューロン発火に違いが出るときだけ量子測定装置として作用し、意識的電磁場の量子状態を収縮する。活動電位の瀬戸際に立たされた量子測定は、方向性のある作用を決断することによって、われわれが自由意志と呼ぶものを提供する。