林譲治著
「ウロボロスの波動」
を読みました。久しぶりにSFらしいSFを読んだ気がします。8年も前に初版が発行されているのに見逃していたのは、著者の名前がオールドSFファンである私にとってなじみがなかったためでしょう。近頃はハードSFにお目にかかることが少なく寂しい思いをしていましたが、本書はまさに本格的ハードSFで、この後もシリーズの連作が出版されているようなので、楽しみにしています。
2100年に発見されたブラックホールの周囲に人工降着円盤を建設し、太陽系全域を網羅するエネルギー転送システムを確立するという時代の幕開けを短編の連作で描いたもので、科学的アイデア、社会構造や個人の描写もリアリティがあってすばらしいです。AIの描写がちょっと物足りない気がしますが、8年前の作品であることを思えば無い物ねだりでしょう。全体を通じて異星の知性体の存在を暗示する重力波信号らしきもの、恒星間宇宙船の発進などの伏線が張ってあって、物語の更なる展開を期待させます。
著者あとがきによれば、人類の銀河系中心までの到達を視野に入れているそうで、壮大な未来叙事詩が紡がれていくことを大いに期待したいと思います。