出版不況の背景には「出版社の努力不足」という一面も確かにあるとして、日本実業出版社企画戦略室長の大西 啓之さんが進めている「ベストセラーを書こう!プロジェクト」というのがあります。これは書籍の企画書をネット上で公募し、第1次審査、第2次審査、決勝大会を経て勝ち残った有望な企画については、著名な出版エージェントに紹介するなどしてベストセラーに結びつけるというものです。

 第2次審査はブログ形式をとり、「本の概要」「著者のプロフィール」「目次」「前書き」「第1章」の5つの要素をサンプル原稿として公開する。決勝大会では一人15分の持ち時間で、「プロフィール」「企画の狙い」「本のセールスポイント」について、質疑応答付きのプレゼンテーションを実行するということです。

 プロジェクトのサイトは こちら、プロジェクトについての解説記事はこちらです。

 ネット記事によると、IT・ビジネス系を中心に出版活動を続けてきた九天社が、6月13日に破産開始決定受けたという。6月10日に東京地裁に自己破産を申請、同日社員を全員解雇。推定負債は6億円。昨年10月に破産したエクスメディアから枝分かれした社員によって2001年8月に設立。販売が伸び悩み、人件費負担も足かせになっていたとのこと。出版社の倒産は日常茶飯事になりニュースにもならなくなってきました。

SF短編集原稿の第二弾です。

2.「第二の生」・・・・・・・・・・・十合ヒロシ
 始業30分前に出社した玉川吾郎は、席につくとパソコンを立ち上げ手慣れた動作で
電子メールのチェックを始めると、ランクAAAのメールを見つけて直ちに開封した。発信元は人事部で、出社しだい人事部長の所にくるようにとの通知だけで用件は何も書いていなかった。厭な予感がした。人事部からの呼び出しでいい話はめったにないが、今回は思い当たる節があるのでよけいに不安になったのである。玉川が所属するジェネテック日本支社は2ヶ月前の人事異動で社長が交代し、アメリカ本社の重役の一人が新社長になっていた。

 新社長は、経営危機に陥った世界各地の支社を立て直した功績で重役に抜擢されたやり手で、「完全な人間が完全な製品を作る。」をモットーとしている。着任後直ちに日本支社の機構改革にのりだし、その一環として全社員の遺伝子スクリーニング実施と会社規則の改訂を重役会議で決定した。玉川は先月国立病院で検査を受けたから、そろそろ診断結果が出る頃なのである。DNAデータベースにアクセスして品種改良に使えそうなものを探索しているうちに、始業時刻になったので玉川はしぶしぶ椅子から立ち上がり、製品企画室を出て一階下の人事部にいくために階段を降りていった。

「やあ、朝っぱらから済まないね。メールではちょっと伝え難いことなんでね」
薄くなった髪を撫でつけながら赤ら顔で小太りの人事部長が、なだめるような口調で云 った。
「それはいいんですが、どんなご用件でしょうか?」玉川は用心しながら聞いた。
「ああ、例のスクリーニングテストなんだが、君の診断結果が出たんだよ。それによると、君には癌、心臓疾患、鬱病の発症に関連する遺伝子欠陥があるんだ。改訂された会社規則によると解雇または自己修正のいずれかを一週間以内に選択してもらわにゃならんのだよ」
「そんな…、私は病気で休んだことはないし、日頃から健康には注意してます」
「分かるよ。君は企画室課長として立派な業績を残してるし、これからも期待してるんだ。だからぜひ自己修正のほうを選択してもらいたいんだよ」
「分かりました。しばらく考えさせてください」
「頼むよ」

 自己修正というのはタマゴに入って完全なゲノタイプに生まれ変わることだ。母親からの誕生を第1の生とすればそれは第2の生と言える。タマゴは本来Transgenic Advanced Mutation And Gene Organization(遺伝子組替による高等変異及び遺伝子機構)の略であるが、TAMAGOが開発したゲノム転換装置がたまたま卵形であることから、いつしか装置そのものをタマゴと呼ぶようになったのである。タマゴに入るには莫大な費用がかかるが、会社からの補助はない。これは会社への忠誠を試す一種の踏絵なのだ。

 玉川は一週間思い悩んだ末、家族の反対を押し切ってついにタマゴに入る自己修正の道を選択した。ありったけの貯金を下ろし、それでも足りない分は家財を売り払って得た金を持って、憑かれたように多摩川にあるTAMAGOに出かけていった。受付で手続きを済ませ少し待たされた後ゲノム転換室に案内された。そこで遺伝技師から転換処置の説明を受け、転換の意志を再確認された後タマゴ=ゲノム転換装置に入れられたのである。

 転換処置は大成功であった。玉川が遺伝技師から聞かされていた起こり得る種々のトラブルは全くなく、むしろ心身ともに転換前よりも快調であった。仕事は前より能率が上がり新製品のアイデアも次々に浮かんできて、頭の働きも良くなったような気がするくらいであった。ただちょっと気になるのは、家族や会社の同僚との会話に溶け込めないようになったことである。小説を読んだりテレビドラマを見たりしたときも同じで、話の内容は完全に理解できるがどこか違和感があって共感できないのだ。味覚を失った人の食事のように無味乾燥なのである。玉川はその原因を探求し論理的帰結を得た。自分は完全なゲノタイプなのだから論理的必然としておかしいのは他人である。従って違和感を解消するには、他人を全部タマゴに入れて自分と同じ完全な人間にする必要がある、……と。


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