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 ダニ・ロドリック著「グローバリゼーション・パラドクス」を読んだ。本書は、市場と統治の視点からグローバル経済が抱える根本的な問題と対応策を提示している。

市場は統治なしには機能しないにもかかわらず、グローバル市場ではその働きを円滑にするための制度がまだ発達していない。全体を管理するグローバルな政府も存在していない。一国レベルでは一致している市場と統治が、グローバルなレベルでは乖離している。貿易や金融は国境を越えて拡大していくが、統治の範囲は国家単位にとどまっている。
ここにグローバル経済の抱える最大の「逆説」がある。

グローバリゼーションは最近になって始まった現象ではなく、貿易や金融取引の国境を越えた拡大は、歴史上何度も繰り返されている。17世紀の重商主義時代、19世紀の金本位制がその例であり、これらの時代に、市場と統治の乖離は帝国主義によって半ば暴力的に解決された。20世紀の民主主義時代には、統治の範囲に市場を縮小させるという形で、市場が各国の政治や社会に「埋め込まれ」、国内市場の安定のためには、グローバルな貿易や金融の拡大を抑制することも辞さないブレトンウッズ体制の下で、資本主義はかってない安定的な発展を享受した。

現代は、ブレトンウッズ体制の崩壊と冷戦終結で、貿易や国際金融が再び活発に拡大する時代である。つまり、市場と統治の乖離というグローバリゼーションの逆説に直面している。そこで、「世界経済の政治的トリレンマ」の概念に基づき、今後の世界が取りうる三つの道を提示している。

トリレンマとは、グローバリゼーションのさらなる拡大(ハイパーグローバリゼーション)、国家主権、民主主義の三つの内二つしかとることができないとするものである。三つの道とは以下に示すものである。
1.グローバリゼーションと国家主権を取って民主主義を犠牲にする
2.グローバリゼーションと民主主義を取って国家主権を捨て去る
3.国家主権と民主主義を取ってグローバリゼーションに制約を加える

著者は3の道に期待しているが、1や2の道と同様に実現にはいくつもの困難がある。どんな選択を行うにせよ、国家が存続し続ける限り、グローバル化の逆説はいつまでも残り続ける。本書は、この現実から出発し、国による経済モデルの違いを認めつつ、世界経済のよりよい未来を構想しようとするものである。

 リサ・ランドール著「ダークマターと恐竜絶滅」を読んだ。3分の2は現在までの宇宙論や惑星科学のおさらいで、後の3分の1が宇宙の小規模スケールの構造における予測と観測の不一致の原因を説明するダークマターの新モデルの提示である。

不一致の一つ目は、通常のダークマターの特性(相互作用は重力だけ)を前提とする数値シミュレーションが、小規模なスケールでの密度プロファイルの観測結果と一致しないことである。最もよく知られる不一致は、「コアーカスプ問題」と呼ばれているものである。
天体内部の物質の密度プロファイルは、予測では「カスプ(尖頭)状」になる。つまり、ダークマター密度が中心部に近づくほど急激に上昇するので、銀河や銀河団の中心領域は高高密度になっていると予測される。しかし、観測結果によれば、ほとんどの銀河はカスプ状ではなく、「コア(平坦に近い)状」のプロファイルを示す。

二つ目の不一致は、銀河や銀河団の中心領域と天の川銀河近傍の矮小銀河の数が、理論上の予測と一致しないことである。予想では、矮小衛星銀河はおおよそ全方向に向かって球状に分布するはずである。しかし、アンドロメダ銀河のまわりを周回する約30個の矮小銀河のうち、約半数はほぼ平面上に分布していて、そのほぼすべてが共通の周回軌道方向を持っているのである。

上記の不一致を解決するダークマターの新モデルが,ダブルディスク・ダークマター(二重円盤ダークマター)」(DDDM)である。まず、二種類のダークマターを仮定する。大多数を占めるのが、重力だけを通じて相互作用する従来通りのコールドマターで、少数派は、重力だけでなく電磁力に似た新種の力(ダーク電磁力)を通じても相互作用するとする。
前者は、球状のハローを形成し、後者は、相互作用によりエネルギーを発散するので、通常の物質と同じように、冷えて円盤(ダークディスク)を形成することができる。円盤状になるのは、角運動量の保存則から、垂直方向(回転軸方向)以外には収縮できないためである。
ダークディスクは、天の川銀河の中央平面に沿った通常物質の円盤の内側にすっぽり収まる(二重円盤)と考えられる。

太陽系が銀河面に入った時や近づいたときには、円盤の重力の潮汐効果が最も強く太陽系に働く。このとき、高密度のダークディスクの潮汐力の影響で、オールト雲の緩く結びついた天体の一部が安定性を失い、太陽系の内側に向かわせられ、彗星として地球への衝突コースに入る。本モデルによれば、大規模な彗星衝突の周期は、恐竜絶滅の時期であるK-Pg絶滅の時期と一致する。

 小林雅一著「ゲノム編集とは何か」を読んだ。本書は、遺伝子工学の最先端技術であるゲノム編集の現状と将来展望について解説したものである。従来の遺伝子組み換え技術は、実現精度が100万分の1と極めて低く、偶然や運に頼ったランダムな技術だったため、遺伝子組み換えには膨大なコストと期間を要した。ゲノム編集は、遺伝子やDNAを構成する塩基を、ピンポイントで削除したり、書き換えたりできる。

中でも「クリスパー」と呼ばれる最新鋭のゲノム編集技術は、高校生でも使えるほど扱いやすく、従来の遺伝子組み換えに要していた期間やコストが劇的に圧縮された。クリスパーはまた、極めて汎用性に富む技術で、あらゆる動物や植物のDNAを操作できる。原因となる遺伝子変異が明確に特定されている遺伝病の治療に適用できる。また、各種のがんや糖尿病、アルツハイマー病など、いくつもの遺伝子変異が環境要因と相互作用しつつ複雑に絡み合って発症する病気に対しては、最先端の人工知能による医療ビッグデータの解析により、原因遺伝子や発症メカニズムを解明し、クリスパーによって遺伝子レベルで手術できるようになる。

医療だけでなく、この技術を「人類の改良」に使おうとする計画もある。体細胞に対する適用は、病気やケガになりにくい体質への強化や老化防止、若返りなどが考えられている。受精卵など生殖細胞への適用は、高い知性と強靭な肉体、美貌を兼ね備えた「デザイナー・ベイビー」を作り出すことになり、優生学的な思想の復活につながる。
さらに、遺伝子工学の力を使って人間が有害生物を意図的に駆逐してしまう「遺伝子ドライブ」も可能になり、地球の生態系を破壊する恐れがある。

ゲノム編集のさらに先を見越した研究も始まっている。ヒトのDNAを完全に化学合成するプロジェクト「ヒト・ゲノム設計計画」である。人工ゲノムは、例えば「あらゆるウイルスへの耐性を備えた臓器開発など、医療技術の進歩に資することができる」というが、人工ゲノムから完全な人造人間を誕生させることもありうる。

先進諸国に共通の生産年齢人口の減少対策として、AIや知的ロボットの活用と、人類自体を遺伝子レベルで強化する方法が考えられている。しかし、倫理面でのガイドラインが存在しないという問題が残されている。

世界は益々SFに近づいていく。宇宙へ出ていくのは人工ゲノムを持つ人造人間なのか?

 青木理著「日本の公安警察」を読んだ。自公政権は、盗聴法、改正住基法、ガイドライン関連法、国歌・国旗法、団体規制法、破防法改正、日本版NSC、秘密法、戦争法、マイナンバー制、さらには共謀罪法案、自民党憲法改正草案と、国民の監視と管理のシステム強化を図るための一連の治安法の整備を進めてきた。それを実行する治安機関は、戦前・戦中の特高を継承する公安警察であり、法整備に伴いその組織強化が急速に進められているはずである。

本書は、公安警察の組織機構、資金と人員、刑事警察との違い、情報収集術、公安秘密部隊、公安事件例などについて記述している。また、治安機関を覆い隠すベールは厚く、密行性と閉鎖性の壁の向こう側で活動は肥大し、制御を失いかねないと述べている。
残念ながら本書は16年前の発行でいささか古く、安倍自民党政権による治安法整備の強行に伴い、間違いなく急速に組織強化されているはずの公安警察を筆頭とする治安機関についてのデータがない。最新のデータに基づくレポート出現を強く望む。

 ヴォルフガング・シュトレーク著「時間かせぎの資本主義」を読んだ。本書は、2008年のリーマンショックから今日まで続く現代資本主義の現状を、三つの危機の相関的危機ととして記述している。
1.銀行危機
 金融工学を駆使した住宅ローンの証券化や金融派生商品の開発を通じて、官民に過剰な信用を供与してきた銀行は、リーマンショック以後巨額の不良債権を抱えることになった。
2.国家債務危機
 信用危機の連鎖的拡大を防ぐために、国は不良債権の引き受けや銀行への資本注入を余儀なくされた。ただでさえも過剰債務を抱えていた国家の債務危機が、これによってさらに悪化した。
3.成長ないしマクロ経済危機
 財政再建のための緊縮は需要を縮小し、マクロ経済を悪化させる。

この三つの危機は互いに密接に関係し合っており、一つの危機を根本的に解決しようとすると他の危機を悪化させるというジレンマがある。特定のボトルネックによる機能不全ではなく、システムそのものに内在する矛盾の顕在化である。こうした危機を生み出した根本原因は、1970年代の資本主義の形態変化にある。戦後資本主義の成長停滞と、その克服のための新自由主義的転換は、危機を「解決」したのではなく、「先送り」してきたにすぎない。その手段は、「貨幣」で「時間を買う」というもの。

時間かせぎの第一弾は、70年代の紙幣増刷による「インフレによる時間かせぎ」、つまり実質成長を名目成長で肩代わりすることによる先送りである。第二弾は、将来の金融資源である国債発行による先送りである。第三弾は、国家債務の家計債務への付け替えである。つまり、個人の債務上限を吊り上げ、労働者の未来の購買力を担保に金融機関から金を引き出し、そのリスクを個人に取らせることで危機を先延ばしした。第四弾は、各国の中央銀行による時間かせぎである。つまり、中央銀行はゼロ金利で市場に資金を提供しているだけでなく、積極的に危機国の国債を購入し、株を購入し、国家と二人三脚で危機の表面化を防いでいる。

この時間かせぎの結果、今日の債務国家は、第一の国民である選挙民の声だけでなく、第二の国民となった金融市場の要求に耳を傾けざるを得ない。行政をスリム化し、大胆な年金カットと社会保障削減を断行できる政治家がよきリーダーと呼ばれる。この四段階の時間かせぎは、民主主義が資本主義の支配に屈していくステップでもある。
次なる社会構想を練ることなく、相変わらず目先の浮利を追いかけるために時間を浪費すれば、そのつけはふたたび大きな痛みを伴う破綻となって戻ってくる。

本書の指摘は日本社会にも当てはまる。政治家は現実を直視して、より良い次の社会システムを構築していくために、有識者の英知を結集する方法、手順を考え実行する義務がある。国民の生活を考えない自己保身だけの偏狭な政策に固執し、強行する政治家は百害あって一利なしで不要である。


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