2017/05/23 (Tue) ポスト資本主義
2017/04/26 (Wed) 核の戦後史

 広井良典著「ポスト資本主義」を読んだ。資本主義システムは不断の「拡大・成長」を不可避の前提とするが、地球資源の有限性、経済格差の拡大、生産過剰による貧困などの課題を解決し、人間の幸せや精神的充足をもたらす社会を構築するには、資本主義とは異質な原理や価値を内包する「ポスト資本主義」とも呼ぶべき社会像の構想が求められている。

人類の歴史は、人口や経済規模の「拡大・成長」時代と「定常化」の時代の交代と把握でき、三回のサイクルがあった。第一のサイクルは、20万年前以降の狩猟採集段階、第二のサイクルは、約一万年前の農耕開始以降の拡大・成長期とその成熟、第三のサイクルは、産業革命以降ここ200から300年前前後の拡大・成長期である。私たちは今「第三の定常化」の時代を迎えるか否かの分水嶺に立っている。

超(スーパー)資本主義ともいうべき「第四の拡大・成長」の時代をもたらす技術的突破の可能性としては、「人工光合成」、「宇宙開発ないし地球脱出」、「ポストヒューマン」の三つが考えられる。しかしこの志向方向は、現在の世界の矛盾は放置した上で外的な拡大や技術に訴えるもので、実現したとしても同様の矛盾が生じ続けることになる。
私たちが今後実現していくべき社会は、現在のアメリカのような甚大な格差や「力」への依存とともに、限りない資源消費と拡大・成長を追求し続けるような社会ではなく、ヨーロッパの一部で実現されつつあるような、「緑の福祉国家」ないし「持続可能な福祉社会」とも呼ぶべき、個人の生活保障と環境保全が経済とも両立しながら実現されていくような社会である。

生産性が最高度に上がった社会では、少人数の労働で多くの生産が上げられ、人々の需要を満たすことができるので、その結果おのずと多数の人が失業するというパラドックスに陥る。失業は貧困につながり、ある意味で「過剰による貧困」とも呼ぶべき状況になる。従って対応策の重要な柱として(1)過剰の抑制(富の総量に関して)、(2)再分配の強化・再編(富の分配に関して)が挙げられる。
(1)の最もシンプルなものとしては賃労働時間の短縮である。日本にそくした提案として「国民の祝日」の倍増がある。(2)としては「機会の平等」の保障強化、「ストックの社会保障」あるいは資産の再分配(土地・住宅、金融資産等)、コミュニティというセーフティネットの再活性化を柱とする。

 ジム・アル=カリーリ&ジョンジョー・マクファデン著「量子力学で生命の謎を解く」を読んだ。本書は、「量子生物学」の最新の成果と可能性を、豊富な実例を通して明らかにしたもの。量子生物学は、これまでの生物学では解けなかった様々な謎を解明してきている。

ヨーロッパコマドリは、量子もつれ状態にある遊離基のペアを使って飛ぶ方向を決め、毎年3000キロの渡りを正確に行う。光受容体クリプトクロムによって、鳥の目が量子コンパスとして作用し、鳥の磁気受容を成立させる。オオカバマダラチョウも同様の仕組みで渡りを行う。

ラクトースを食べられない細菌が、ラクトースのみの環境に置かれて何日か経ってから急に、ラクトースを食べるコロニーが大量に現れる「適応的突然変異」は、標準的な進化論では説明できない。遺伝子が量子情報系だとすれば、ラクトースの存在が量子測定になる。細菌のDNAに含まれる陽子は、変異を引き起こす位置にトンネルし、またもとの位置にトンネルして戻る。量子測定により陽子の位置はどちらかに収束するが、変異を起こす位置だったら遺伝子が訂正され、ラクトースを食べ成長して増殖する。

量子振動説によれば、嗅覚受容体の生体分子は、電子の量子トンネル効果を使って化学結合の振動を感知している。受容体分子の「ドナー部位」に電子が1個あり、捕まえた匂い分子が適正な振動数の結合を持っていると、電子はトンネル効果によって同じ分子内の「アクセプター部位」へ飛び移る。この電子がつながれていたGタンパク質の魚雷を発射させ、それによって嗅覚神経細胞が発火して信号が脳へ伝えられる。

生命は量子の世界と古典的な世界との縁を航海している。細胞は細長いキールを量子の層までまっすぐに突き刺した船のようなもので、そのためにトンネル効果や量子もつれなどの現象を利用することで生き続けることができる。量子の世界とのこの結びつきを積極的に維持するには、熱力学の嵐(分子ノイズ)を利用して、量子コヒーレンスを壊すのではなく維持しなければならない。

 木村朗・高橋博子著「核の戦後史」を読んだ。本書は、原爆投下の経緯・背景と核の戦後史の見方について重要なポイントを解説し、アメリカの公文書を元に、核戦略の核心、放射能汚染やヒバクシャに対する日米両政府の対応の実態について明らかにしたものである。

原爆神話とは、日本への原爆投下は正しかったとみせかけるため、アメリカが戦後に作った虚構である。戦後の日本政府もこの原爆神話を一度も公式に否定したことはない。原爆神話は、原爆投下の目的・動機と結果・影響の二本柱から成り立っている。原爆投下の目的・動機は、早期降伏説と人命救助説という二つの説を重ね合わせたものである。

早期降伏説とは、原爆投下は日本を早く降伏させるためで、投下がなければ日本は降伏しなかったというもの。人命救助説とは、原爆投下がなければ、アメリカ軍の日本本土上陸によってアメリカ兵に百万人以上の死傷者が出た。投下によって、犠牲になるはずの多くのアメリカ兵、日本人の命は救われたというもの。

アメリカ政府は今でも、早期降伏説と人命救助説を公式見解として掲げており、多くのアメリカ国民もこれを真実として受け入れている。しかし、戦後史の研究者の中で、現在、この見解を信じる人はほとんどいない。アメリカ国立公文書館から公開された政治家や政府高官の文書や、研究者や市民グループが、情報公開法に基づき公開させた情報から、早期降伏説と人命救助説が神話に過ぎず、虚構であることがほぼ証明できる。

アメリカは、日本が国体護持(天皇制の容認)だけを条件に降伏したがっていることを知っていた。日本に天皇制維持の保証を与えれば、平和的手段(対話)によって戦争を終結させることができた。しかし、原爆実験に成功したアメリカは、平和的手段を一貫して退け、軍事的手段として「海上封鎖と本土爆撃の継続」、「ソ連参戦」、「日本本土上陸作戦の実施」などを準備しながら、結局、「原爆投下」を優先した。アメリカは、軍事的な理由というよりは政治的な理由によって、「原爆投下による終戦(日本降伏)」にこだわったと思える。人体実験とソ連に対する威嚇の意味合いが強い。

また、アメリカ政府は、原爆投下前に日本上陸作戦が実行された場合、アメリカ兵の死傷者は30日間で3万一千人以下と予想しており、死傷者百万人はオーバーである。それに、原爆投下による日本人の死傷者は二十数万人だから、人命救助説も成り立たない。

 日本政府は、原爆使用に対して1945年8月10日、スイス政府を通じてアメリカ政府に抗議文を伝達したが、この一回だけを除いては、一般市民の無差別殺戮についてこれまで一度も抗議していない。アメリカは原爆による残留放射能の存在を認めなかった。それは、「不必要の苦痛」を与える残留放射能の存在を認めると、原爆使用は国際法違反とみなされ、使用できなくなるからである。
アメリカは戦後、広島、長崎に調査団を派遣して被爆地を調査したが、残留放射能の影響を否定した。

日本は、1988年にアメリカと結んだ日米原子力協定(第十二条四項)によって、アメリカの同意なしには原発を止めることができない。地震大国で54基の原発を持つ世界3位の原発大国になったこと、また福島第一原発事故にもかかわらず原発を止められない理由の一つである。2012年に改正された原子力基本法によれば、原発の安全は、軍事戦略・防衛戦略(端的には核武装)も考慮の対象に含めて決めることになっている。

 吉田敏浩著「日米合同委員会」の研究を読んだ。本書は、「日米合同委員会」が敗戦による米軍占領体制を、基地を通じて永久に維持するための仕組みであり、今日までもそこでの決定事項は、秘密裏に憲法や国内法よりも優先され、国や国民の主権が空洞化されて、国民の生活にも重大な影響を及ぼしていることを具体的な事例をもとに指摘し、日米合同委員会に代わる国会の「日米地位協定委員会」の設置、運用を提案している。

 日米合同委員会の前身は、日米間の協議機関「予備作業班」で、対日講和条約の発効前から米軍基地の決定・提供の手続きのために設置された。1952年、対日講和条約と日米安保条約・行政協定が発効後、そのまま日米合同委員会に移行し、それまでの協議や合意や作業をすべて継承した。また、基地提供作業のほかに、米軍の特権を保証するための国内法令制定のための準備作業があった。

 日米合同委員会の議事録や合意文書は原則非公開で、情報公開法に基づき開示請求しても、ことごとく不開示になる。非公開の根拠となる文書も秘密にされる。日米合同委員会の密室で、日本の高級官僚と在日米軍の高級軍人によって、米軍に有利な特権を認める秘密の合意、すなわち密約がいくつも結ばれている。
「基地権密約」は、安保改定に伴う行政協定から地位協定への切り替え交渉で、新しい地位協定の条文にいくら変更がほどこされても、米軍の基地使用の特権は行政協定時代と実質的に変わらないとする密約である。
「裁判権放棄密約」は、米軍関係者による犯罪に関して、「日本にとって著しく重要な事件以外は裁判権を行使しない」という密約である。「身柄引き渡し密約」は、米軍人・軍属による犯罪において、被疑者の身柄をできるかぎり日本側で拘束せず、米軍側に引き渡すという密約である。これは国内法の刑事特別法に抵触している。

「航空管制委任密約」は、横田空域(首都圏を中心に1都9県の上空をすっぽり覆う広大な空域)や岩国空域(米軍岩国基地を中心に、山口、愛媛、広島、島根の4県にまたがる広い空域)、那覇進入管制空域などにおける米軍戦闘機・輸送機の発着を独占的、優先的に使用するという密約である。これらは、日米地位協定にも国内法上にも法的根拠がない。つまり、事実上日本の空の主権が、法的根拠もなく米軍によって奪われており、独立国としてあるまじき状態が、独立回復後60年以上も続いている。

 これらの問題の抜本的解決策としては、日米地位協定・第25条を廃止して、米軍の軍事的要求を優先する密室協議の場である日米合同委員会をなくすべきである。地位協定の運用に関する問題は、日本の関係各省庁がアメリカ側の主張を聞き取り、その全容を正確に衆参両院の「日米地位協定委員会」に逐次報告し、同委員会で審議したうえで日本側の主張をアメリカ側に伝えるようにすればよい。

 これを実現する一歩として、与野党を問わず国会議員が、日米合同委員会の実態解明、議事録や合意文書の情報公開要求、そして「日米地位協定委員会」設置に向けて、超党派の勉強会づくりから始めてはどうか。もちろん、そうした動きをバックアップする日本社会の問題意識と世論の高まり、国民・市民の支持も欠かせない。

 今の自民党政権や国会議員、国民の問題意識をみれば、著者の正論も実現は極めて困難な気がする。歴代の自民党政権や外務省のエリート官僚によるアメリカ追従政策は、60年以上続いており変わる気配がないし、国民の大多数も問題意識がない。国会議員は、与野党とも党利党略に明け暮れ、国民主権などお構いなしに自分たちが主権者と勘違いしているのだから。

 ゲオルク・ノルトフ著「脳はいかに意識をつくるのか」を読んだ。本書は「意識とは何か」を探求する哲学と、脳神経科学における最新の成果の統合を試みる野心的な神経哲学の書である。

本書は、うつ病、統合失調症などの精神疾患を抱える患者の臨床的な症例、fMRIなどの最新の脳画像技術を駆使することで得られた実証的な成果をもとに、精神病患者のみならず健常者の意識がいかに構築されるのかを探求した。その結果、「安静時脳活動」を生理的な基盤とする時間・空間構造によって「世界―脳」関係が構築されるという結論が導き出された。安静時脳活動の異常は、正常な「世界―脳」関係を変質させ、統合失調症などの精神疾患を引き起こす。

脳による神経活動から心への変換は、脳の遺伝子―神経の結びつき、さらには脳の生態的、環境的な統合に依拠する。脳は、脳+遺伝子+環境なのだから、哲学者は、心の本質や心と脳の関係を問うのではなく、脳の本質や脳と遺伝子、そして究極的には世界との関係を問うべきである。かくして心脳問題は、「遺伝子―脳」問題、さらには「世界―脳」問題に置き換えられる。


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