2017/02/21 (Tue) ゲノム編集とは何か

 吉田敏浩著「日米合同委員会」の研究を読んだ。本書は、「日米合同委員会」が敗戦による米軍占領体制を、基地を通じて永久に維持するための仕組みであり、今日までもそこでの決定事項は、秘密裏に憲法や国内法よりも優先され、国や国民の主権が空洞化されて、国民の生活にも重大な影響を及ぼしていることを具体的な事例をもとに指摘し、日米合同委員会に代わる国会の「日米地位協定委員会」の設置、運用を提案している。

 日米合同委員会の前身は、日米間の協議機関「予備作業班」で、対日講和条約の発効前から米軍基地の決定・提供の手続きのために設置された。1952年、対日講和条約と日米安保条約・行政協定が発効後、そのまま日米合同委員会に移行し、それまでの協議や合意や作業をすべて継承した。また、基地提供作業のほかに、米軍の特権を保証するための国内法令制定のための準備作業があった。

 日米合同委員会の議事録や合意文書は原則非公開で、情報公開法に基づき開示請求しても、ことごとく不開示になる。非公開の根拠となる文書も秘密にされる。日米合同委員会の密室で、日本の高級官僚と在日米軍の高級軍人によって、米軍に有利な特権を認める秘密の合意、すなわち密約がいくつも結ばれている。
「基地権密約」は、安保改定に伴う行政協定から地位協定への切り替え交渉で、新しい地位協定の条文にいくら変更がほどこされても、米軍の基地使用の特権は行政協定時代と実質的に変わらないとする密約である。
「裁判権放棄密約」は、米軍関係者による犯罪に関して、「日本にとって著しく重要な事件以外は裁判権を行使しない」という密約である。「身柄引き渡し密約」は、米軍人・軍属による犯罪において、被疑者の身柄をできるかぎり日本側で拘束せず、米軍側に引き渡すという密約である。これは国内法の刑事特別法に抵触している。

「航空管制委任密約」は、横田空域(首都圏を中心に1都9県の上空をすっぽり覆う広大な空域)や岩国空域(米軍岩国基地を中心に、山口、愛媛、広島、島根の4県にまたがる広い空域)、那覇進入管制空域などにおける米軍戦闘機・輸送機の発着を独占的、優先的に使用するという密約である。これらは、日米地位協定にも国内法上にも法的根拠がない。つまり、事実上日本の空の主権が、法的根拠もなく米軍によって奪われており、独立国としてあるまじき状態が、独立回復後60年以上も続いている。

 これらの問題の抜本的解決策としては、日米地位協定・第25条を廃止して、米軍の軍事的要求を優先する密室協議の場である日米合同委員会をなくすべきである。地位協定の運用に関する問題は、日本の関係各省庁がアメリカ側の主張を聞き取り、その全容を正確に衆参両院の「日米地位協定委員会」に逐次報告し、同委員会で審議したうえで日本側の主張をアメリカ側に伝えるようにすればよい。

 これを実現する一歩として、与野党を問わず国会議員が、日米合同委員会の実態解明、議事録や合意文書の情報公開要求、そして「日米地位協定委員会」設置に向けて、超党派の勉強会づくりから始めてはどうか。もちろん、そうした動きをバックアップする日本社会の問題意識と世論の高まり、国民・市民の支持も欠かせない。

 今の自民党政権や国会議員、国民の問題意識をみれば、著者の正論も実現は極めて困難な気がする。歴代の自民党政権や外務省のエリート官僚によるアメリカ追従政策は、60年以上続いており変わる気配がないし、国民の大多数も問題意識がない。国会議員は、与野党とも党利党略に明け暮れ、国民主権などお構いなしに自分たちが主権者と勘違いしているのだから。

 ゲオルク・ノルトフ著「脳はいかに意識をつくるのか」を読んだ。本書は「意識とは何か」を探求する哲学と、脳神経科学における最新の成果の統合を試みる野心的な神経哲学の書である。

本書は、うつ病、統合失調症などの精神疾患を抱える患者の臨床的な症例、fMRIなどの最新の脳画像技術を駆使することで得られた実証的な成果をもとに、精神病患者のみならず健常者の意識がいかに構築されるのかを探求した。その結果、「安静時脳活動」を生理的な基盤とする時間・空間構造によって「世界―脳」関係が構築されるという結論が導き出された。安静時脳活動の異常は、正常な「世界―脳」関係を変質させ、統合失調症などの精神疾患を引き起こす。

脳による神経活動から心への変換は、脳の遺伝子―神経の結びつき、さらには脳の生態的、環境的な統合に依拠する。脳は、脳+遺伝子+環境なのだから、哲学者は、心の本質や心と脳の関係を問うのではなく、脳の本質や脳と遺伝子、そして究極的には世界との関係を問うべきである。かくして心脳問題は、「遺伝子―脳」問題、さらには「世界―脳」問題に置き換えられる。

 ダニ・ロドリック著「グローバリゼーション・パラドクス」を読んだ。本書は、市場と統治の視点からグローバル経済が抱える根本的な問題と対応策を提示している。

市場は統治なしには機能しないにもかかわらず、グローバル市場ではその働きを円滑にするための制度がまだ発達していない。全体を管理するグローバルな政府も存在していない。一国レベルでは一致している市場と統治が、グローバルなレベルでは乖離している。貿易や金融は国境を越えて拡大していくが、統治の範囲は国家単位にとどまっている。
ここにグローバル経済の抱える最大の「逆説」がある。

グローバリゼーションは最近になって始まった現象ではなく、貿易や金融取引の国境を越えた拡大は、歴史上何度も繰り返されている。17世紀の重商主義時代、19世紀の金本位制がその例であり、これらの時代に、市場と統治の乖離は帝国主義によって半ば暴力的に解決された。20世紀の民主主義時代には、統治の範囲に市場を縮小させるという形で、市場が各国の政治や社会に「埋め込まれ」、国内市場の安定のためには、グローバルな貿易や金融の拡大を抑制することも辞さないブレトンウッズ体制の下で、資本主義はかってない安定的な発展を享受した。

現代は、ブレトンウッズ体制の崩壊と冷戦終結で、貿易や国際金融が再び活発に拡大する時代である。つまり、市場と統治の乖離というグローバリゼーションの逆説に直面している。そこで、「世界経済の政治的トリレンマ」の概念に基づき、今後の世界が取りうる三つの道を提示している。

トリレンマとは、グローバリゼーションのさらなる拡大(ハイパーグローバリゼーション)、国家主権、民主主義の三つの内二つしかとることができないとするものである。三つの道とは以下に示すものである。
1.グローバリゼーションと国家主権を取って民主主義を犠牲にする
2.グローバリゼーションと民主主義を取って国家主権を捨て去る
3.国家主権と民主主義を取ってグローバリゼーションに制約を加える

著者は3の道に期待しているが、1や2の道と同様に実現にはいくつもの困難がある。どんな選択を行うにせよ、国家が存続し続ける限り、グローバル化の逆説はいつまでも残り続ける。本書は、この現実から出発し、国による経済モデルの違いを認めつつ、世界経済のよりよい未来を構想しようとするものである。

 リサ・ランドール著「ダークマターと恐竜絶滅」を読んだ。3分の2は現在までの宇宙論や惑星科学のおさらいで、後の3分の1が宇宙の小規模スケールの構造における予測と観測の不一致の原因を説明するダークマターの新モデルの提示である。

不一致の一つ目は、通常のダークマターの特性(相互作用は重力だけ)を前提とする数値シミュレーションが、小規模なスケールでの密度プロファイルの観測結果と一致しないことである。最もよく知られる不一致は、「コアーカスプ問題」と呼ばれているものである。
天体内部の物質の密度プロファイルは、予測では「カスプ(尖頭)状」になる。つまり、ダークマター密度が中心部に近づくほど急激に上昇するので、銀河や銀河団の中心領域は高高密度になっていると予測される。しかし、観測結果によれば、ほとんどの銀河はカスプ状ではなく、「コア(平坦に近い)状」のプロファイルを示す。

二つ目の不一致は、銀河や銀河団の中心領域と天の川銀河近傍の矮小銀河の数が、理論上の予測と一致しないことである。予想では、矮小衛星銀河はおおよそ全方向に向かって球状に分布するはずである。しかし、アンドロメダ銀河のまわりを周回する約30個の矮小銀河のうち、約半数はほぼ平面上に分布していて、そのほぼすべてが共通の周回軌道方向を持っているのである。

上記の不一致を解決するダークマターの新モデルが,ダブルディスク・ダークマター(二重円盤ダークマター)」(DDDM)である。まず、二種類のダークマターを仮定する。大多数を占めるのが、重力だけを通じて相互作用する従来通りのコールドマターで、少数派は、重力だけでなく電磁力に似た新種の力(ダーク電磁力)を通じても相互作用するとする。
前者は、球状のハローを形成し、後者は、相互作用によりエネルギーを発散するので、通常の物質と同じように、冷えて円盤(ダークディスク)を形成することができる。円盤状になるのは、角運動量の保存則から、垂直方向(回転軸方向)以外には収縮できないためである。
ダークディスクは、天の川銀河の中央平面に沿った通常物質の円盤の内側にすっぽり収まる(二重円盤)と考えられる。

太陽系が銀河面に入った時や近づいたときには、円盤の重力の潮汐効果が最も強く太陽系に働く。このとき、高密度のダークディスクの潮汐力の影響で、オールト雲の緩く結びついた天体の一部が安定性を失い、太陽系の内側に向かわせられ、彗星として地球への衝突コースに入る。本モデルによれば、大規模な彗星衝突の周期は、恐竜絶滅の時期であるK-Pg絶滅の時期と一致する。

 小林雅一著「ゲノム編集とは何か」を読んだ。本書は、遺伝子工学の最先端技術であるゲノム編集の現状と将来展望について解説したものである。従来の遺伝子組み換え技術は、実現精度が100万分の1と極めて低く、偶然や運に頼ったランダムな技術だったため、遺伝子組み換えには膨大なコストと期間を要した。ゲノム編集は、遺伝子やDNAを構成する塩基を、ピンポイントで削除したり、書き換えたりできる。

中でも「クリスパー」と呼ばれる最新鋭のゲノム編集技術は、高校生でも使えるほど扱いやすく、従来の遺伝子組み換えに要していた期間やコストが劇的に圧縮された。クリスパーはまた、極めて汎用性に富む技術で、あらゆる動物や植物のDNAを操作できる。原因となる遺伝子変異が明確に特定されている遺伝病の治療に適用できる。また、各種のがんや糖尿病、アルツハイマー病など、いくつもの遺伝子変異が環境要因と相互作用しつつ複雑に絡み合って発症する病気に対しては、最先端の人工知能による医療ビッグデータの解析により、原因遺伝子や発症メカニズムを解明し、クリスパーによって遺伝子レベルで手術できるようになる。

医療だけでなく、この技術を「人類の改良」に使おうとする計画もある。体細胞に対する適用は、病気やケガになりにくい体質への強化や老化防止、若返りなどが考えられている。受精卵など生殖細胞への適用は、高い知性と強靭な肉体、美貌を兼ね備えた「デザイナー・ベイビー」を作り出すことになり、優生学的な思想の復活につながる。
さらに、遺伝子工学の力を使って人間が有害生物を意図的に駆逐してしまう「遺伝子ドライブ」も可能になり、地球の生態系を破壊する恐れがある。

ゲノム編集のさらに先を見越した研究も始まっている。ヒトのDNAを完全に化学合成するプロジェクト「ヒト・ゲノム設計計画」である。人工ゲノムは、例えば「あらゆるウイルスへの耐性を備えた臓器開発など、医療技術の進歩に資することができる」というが、人工ゲノムから完全な人造人間を誕生させることもありうる。

先進諸国に共通の生産年齢人口の減少対策として、AIや知的ロボットの活用と、人類自体を遺伝子レベルで強化する方法が考えられている。しかし、倫理面でのガイドラインが存在しないという問題が残されている。

世界は益々SFに近づいていく。宇宙へ出ていくのは人工ゲノムを持つ人造人間なのか?


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